卒業研究要旨(2014年度)

生活に溶け込む場としての図書館

2014年度卒業研究 空間デザイン研究室 衛藤彩乃

1.研究目的

 今、現在は図書館を利用する人の目的自体が変わりつつある。図書館が利用者に居場所をつくることで、利用者に「居る」という新たな目的をもたせたのではないか。図書館には今までと違う、新たな役割があるのか見いだしたい。

2.研究方法(表1)

 1)文献調査として、雑誌の事例から過去25年間の図書館の設計の流れを把握した。
2)行動観察調査を表2の2つの図書館で行った。利用者の属性・行為・座席を30分間毎にプロットした。

3.図書館の移り変わり

 文献から図書館の設計コンセプトに関わるキーワードを抽出し5年毎に変化をみた。(表3) 90年代は内装や空間作りより、外観の作りへの意識が強かったが、2000年あたりから「居る」ということに着目し身体的にも精神的にも利用者をサポートする設計が意図されている。
 複合施設の変化としては、1995年〜1999年に、レストラン等の飲食ができるスペースが複合した。次第に、図書スペースに飲み物を持ち込めるようになり、過ごしやすい場となった。また、以前は集会所という利用者を限定したものが複合されていたが、近年は交流スペースなどの誰が利用してもよく、行動を限定しないフリースペースが増えている。

4.来館者の行動

 利用者の館内行動を、資料利用/勉強/居る/その他の4つに分類した。「居る」とは、館内資料を利用せず、休息や携帯を扱う、音楽を聴く、外を眺める、寝るなどの自宅でくつろいでいるような振る舞いで、従来の図書館利用として想定されていない行動を指す。観察調査の結果、両図書館で「居る」行為を見る事ができた。座席によって「居る」行為の割合は違いが見られ、中央のテーブル席や6人掛けの席より、窓際の席に「居る」行為が多く見られた。(図1、2)T図書館は本棚の間に挟まれた席、H図書館では開架室との間に段差が設けられており、他者の目を意識せず居られることが共通している。

5.結論

 図書館の設計が利用者の「居る」行為のサポートをするようになってきていることや、「居る」行為を図書館が許容し、他の利用者にも認識されるようになっていることで、図書館が自由度の高い行動ができる、居やすい場となり始めている。
 従来、図書館とは静寂な環境が保たれている場所であり、勉強するなどの目的を持って来館する「目的的利用」が主体であったが、あえて図書館で行わなくてもよいが、図書館に行って「居る」行為をする「場面選択的利用」が発生している。図書館が居場所の選択肢のひとつとなり、図書館という場が人々の生活に溶け込んでいる。

(表1)調査概要
文献調査 新建築1990年10月号〜2015年1月号から45館図書館を選出
利用者行動調査
 T図書館:12月3日(水)10:00〜20:0013日(土)10:00〜17:00
 H図書館:12月17日(水)10:00〜22:0021日(土)10:00〜17:00

(表2)調査対象地概要
T図書館
 全70席2012年10月開館
 鶴川駅前すぐにあり、地域の交流発展の拠点になることを目指している。吹き抜けが2つあり広々とした空間になっている。
H図書館
 全156席2011年11月開館
 霞ヶ関駅、内幸町駅から徒歩3分、千代田区立の図書館である。ビジネス情報支援や、アート情報支援など課題解決できる図書館である。座席がきれいに配置されている。

(表3)図書館建築のコンセプトの変化
1990〜1994 7館
 新しい街並形成の先導的な役割を担うなど、地域との兼ね合いに重点が置かれており、中に意識を向けるより外への意識が強い。
1995〜1999 14館
 可変的装置を取り入れメディアの参入などに、柔軟に対応している。しかし、現状を受け入れるだけの身の丈に合った形質である。
2000〜2004 6館
 中へ工夫がみられる始め、メディアの対しても硬さを感じさせないよう利用者の五感に対し、暖かくリスポンスするものを作っている。
2005〜2009 6館
 外と中をつなげ、広々とした場を図書館の内部に取り込み、見通しの良さや使い分けを自由にし、自由に降るまい、新たな知を創出する場として、図書館を捉えている。
2010〜2014 12館
 開放的でめりはりのある居心地の良い場をつくり、利用者の行動をサポートし、「居る」ということに着目している。

(図1)T図書館場所別行為(グラフ)
(図2)H図書館場所別行為(グラフ)



2003-2015, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2015-01-25更新