卒業研究要旨(2014年度)

過去と現在の生活からみる新作八幡宮の存在と魅力 〜高津区地域の聞き取り調査から〜

2014年度卒業研究 空間デザイン研究室 福田奈於子

1.はじめに

 近年、マンション建設が進み、思い出の場、交流の場が失われてきているのではないか。私の地元にある、特に身近で歴史のある新作八幡宮が住民にとって思い出の場であり、交流の場となっているのではないか。新作八幡宮の存在と魅力について考察する。

2.研究概要

2-1 調査方法

 神奈川県川崎市高津区の地域に住む住民を対象に、新作八幡宮に訪れた人、子供の頃から地元に住む人、計33人に聞き取り調査を実施した。(調査期間は、2014年8月20日~12月30日までである。)

2-2 調査対象地

 40年前、住宅地の周りは田畑が多く、ため池や泥濘んだ池がある湿地帯であった。山林等も多く、自然に囲まれた場所であり、起伏ある形状が特徴である。しかし、高度成長期で第三京浜道路や田園都市線ができ住宅地化が進み、交通が便利になったことで、現在ではマンションが多数建設されてきている。

3.個人の生活からみえてくる特徴

 調査対象者の一人ひとりの地域の生活の様子をまとめ、図に示した。(図1)高齢者は行動範囲が狭く限られており、若い人は地域外へも行動範囲が広がっていた。

4.地域の変遷と神社の存在

 ヒアリングから得られた生活の様子を重ね合わせ過去から現在に至る地域像の変遷をみる。

4-1 子供の遊びからみる地域の変化

 かつてこの地域は田畑の広がる田園地帯であり、山林、川、ため池などの自然に囲まれた地域であった。子供たちは自然を舞台にして、木登り、水遊び魚や虫取り等にいっていた。八幡宮も子供たちにとってそうした遊び場の1つとして利用されていた。八幡宮では毎年祭りも開かれ、出店や芝居小屋、相撲大会等、子供たちの特別な楽しみの場となっていた。
 現在では住宅地化され自然は減少し、子供たちの遊び場は公園や遊戯施設等、作られた場の中心となっている。その中、八幡宮は過去の姿をとどめ、記憶をつないでいる存在となっている。

4-2 場所とかかわりからみる地域の変化

 当時は現在のように店は多くなかったが、商店街や個人商店で買い物がされ、店主を介して地域の情報伝達や、コミュニケーションの場となっていた。
 現在では買い物の場は個人商店からスーパーやコンビニへと移行した。近場にあった映画館等の娯楽施設は潰れ、充実した都心部へと向いている。全体に地域の利便性や快適性は向上しているが、身近さは薄れているのではないか。
 神社は以前から、変わらず様々な人が訪れる場所である。昔祖母に連れられて遊びに来ていたり、初詣や願掛け等でも訪れ、眺めも良く散歩コースや運動場所としても良く訪れるきっかけになっていた。様々なきっかけで気軽に訪れられる場所となっている。

4-3 コミュ二ケーションからみる地域の変化

 高度成長期に入り住宅地化が進行した当時、近所付き合いや団地付き合いは現在より盛んで冠婚葬祭をとりしきったり、町内活動やPTA活動、サークル活動等も活発だった。
 現在でも、長年住んでいる住民にはそうした付き合いや活動は残っているが、若い人や、マンションの新規住居者はかかわりが薄くなっている。
 そんな中、八幡宮は現在毎日集うラジオ体操の会や社務所の管理者を介したコミュニケーションの場となっている。訪れる日程が決まっている等の縛りはなく、来たいときに訪れ、そこではちょっと立ち寄る人から深い付き合いまで幅広い付き合いがされる、八幡宮が地域コミュ二ティの1つの拠点ともなっている。

5.まとめ

 八幡宮は、地域の鎮守としての本来の役割にとどまらず、過去の思い出を継続させる場として存在し多様なきっかけにより、以前から気軽に訪れられ、多様な関わりをもたらす場となっており、更に現在では穏やかなコミュニティの拠点として一部の人には心のよりどころや元気の源ともなっている。
 様々な人を受け入れる懐の深さと、常にそこに滞在し訪れた人とコミュニケーションをとる人の存在が、住民にとっての居場所となり魅力となっていた。

(図1)Mさんの行動範囲(75歳・男性・住居年数53年)



2003-2015, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2015-01-25更新