卒業研究要旨(2014年度)

視覚変化から見る街並みの魅力 〜国立 大学通りにおけるケーススタディ〜

2014年度卒業研究 空間デザイン研究室 伊藤有里佳

1.はじめに

 国立駅前の大学通りは、都市景観形成条例を始めとした都市計画により、美しい街のイメージが築かれてきた。本研究ではそうした静的な魅力ではなく、国立の景観に潜む、歩行に伴う視覚の変化という動的な魅力について探ることを目的とする。

2.研究方法

 国立市大学通り商業ゾーン230m(表1)を対象とする。現況図(平面図・立面図)を作成し(図1)、平面的・立面的に街並みの特徴を把握した後、歩行時の視覚情報の変化に注目し、記述・分析を行った。(表2)また、植栽の与える影響を捉えるため、シミュレーションによる比較を行った。

3.立面にみる街並みの特徴

 各建物の立面の様子、開口部(ガラス面)面積、開口部から得られる情報や印象などどを、定量的・定性的に把握した。全体的にファサードにガラス面を用いた店舗が多く、1階部分のガラス面占有率平均は52%と、半分以上をガラス面が占めている。また、整然と統一感のある街並みと思われがちだが、建物の開口や高さは様々であり、チェーン店や個人の個性的な建物が混在していた。

4.歩行時の可視領域の変化

(1)視界量の変化

 歩行に伴う視界量の変化の仕方は、建物側30〜80度と正面80〜100度、植栽側100〜150度で異なる特徴が見られた。建物側では、セットバックが大きいほど視界量の変化も大きく、急激な視界量の変化も多くなる。また、建物に隙間が生まれることや、柱や看板によって視界が遮られることで、視界量の変化が生まれる。植栽側では歩道と植栽の距離が近いほど視界量は少なくなり、遠いほど多くなる。植栽の位置に偏りがあるほど視線量に変化が生まれやすい。

(2)可視領域の形態変化

 一歩ごとに可視領域の形態は変化する。建物側では、通り全体にセットバックの距離の違いがあることで、様々な変化が生まれ、随所でリズムの繰り返しが起こる。1階部分がセットバックしている建物は、わずかな距離でも視界の変化が起こりやすい。植栽側では、歩道と植栽の距離が近いほど視線が遮られてから抜けるまでが遅く、急激な変化も起こる。植栽の位置に偏りがあるほど、歩行時の視覚変化が生まれやすい。

(3)植栽シミュレーションによる比較(図2)

 街路樹がかなり不規則に並んでいる現状に対し、等間隔に規則的に並び替えた状態での視界の変化を比較した。規則的な場合の変動の仕方は、規則的で変動の量も小さく、これに対し現状では変動量は約3.8倍に達し、様々な変動のパターンが認められた。

5.おわりに

 大学通りには建物、植栽の両方向に視界が変化する要素があり、これらの絶え間なく続く不規則な視覚変化が街並みの魅力に繋がっているのではないだろうか。

(表1)調査対象地概要
東京都国立市大学通り商業ゾーン(約230m)国立停車場谷保線、通称「大学通り」は、JR国立駅南口から放射状にのびる3本の道の内、中央の道である。道幅44m、車道距離2km弱の大通りであり、車道、歩道及び緑地帯から成り立つ。商業ゾーン、大学ゾーン、住宅ゾーンに分かれており、商業ゾーンは国立市の商業の発展に寄与し、商業地区と国立の落ち着いた雰囲気のバランスを保っている。

(表2)研究方法
歩行時の前方可視領域を、ある地点から放射状に引いた視線の集合で示す。視界は前方の左右60度ずつの範囲とし、視線は2.5度間隔で合計49本、距離は最大50mとした(図3)。
ある地点での49本の視線の距離の合計を「視界量」とする。
駅〜大学間の範囲において、1mごとに片側228地点、合計456地点のデータを作成した。

(図1)連続立面図 西側

(図2)植栽シミュレーション
(図3)視界の表し方



2003-2015, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2015-01-25更新