卒業研究要旨(2014年度)

これからの本屋のあり方

2014年度卒業研究 空間デザイン研究室 柏木裕美

1.研究目的・背景

 現在、本屋は減少と多様化の局面にある。情報化時代、ニューメディア時代、読者の趣味嗜好の多様化、若年層の読書離れ、ネット書店の台頭、電子書籍問題等々、本屋を取り巻く環境は大きく変化した。本屋の数は、2000年から2010年の10年間で約3割、約6000店減少した。中でも昔からある従来の街の本屋が姿を消しつつあるが、小規模だからこそ果たせる役割があるのではないだろうか。本研究は、こうした街の本屋のあり方、必要性を明らかにすることを目的とする。

2.研究方法

 本屋に関する文献・本屋に関する業界としての取組(フューチャーブックストアフォーラム・書店再生のための5項目)から本屋の現状を把握した。また、普段、本屋を利用している46名にアンケートを行い、実際の本屋を利用する理由など、そのニーズを調査した。その上で、地域に密着している独立系小商店19軒を対象として店の経営者にヒアリングを行った。

3.本屋の動向

(1)本屋のタイプ(表1)

 売り場が大きく品揃えの豊富な1の大規模店と2〜5の中小規模に分けられる。後者のうち2〜4は本来の本屋の機能に新たな付加価値をつける取り組みとして注目を浴びている。だが、来客層は本屋の特徴ごとに限定される傾向がある。一方、5の従来型は、大規模店の利便性も、際立った特徴にも欠け、淘汰の波にさらわれ苦境に立たされているのが現状である。

(2)本屋に対するニーズ(図1)

 ネット上ではない現実の本屋を利用する理由は「実際の本に触れて選びたい」「本との予期せぬ出会い」などが多い。また、少数ながら「店員と会いたい」「家族で行ける」「帰り道」にある。などの理由もみられ、利便性のみならず、地域に密着した本屋に対するニーズを見て取ることができる。

4.街の本屋の役割・意味

 本屋に対するヒアリング結果から見えてきた街の本屋ならではの特徴を以下に示す。

(1)来客について

 地元の人が多く、常連客が多いことが特徴である。子供からお年寄りまで幅広い客が訪れており、誰にでも身近な存在であることが示唆された。

(2)来客との関わり方について

 「会話を大切にしている」「顔を覚えてニーズを把握する」「頼まれた本は、絶版でもできる限り仕入れる努力をする」など、来客との信頼関係を重視し、一人ひとりの客に応えることを心掛けていた。

(3)本の提供について

 単に売れる本を並べるだけでなく「その人のニーズによって提案する」「一緒に本を探す」など、客をの直接の関わりの中で本との出会いを促そうとする姿勢がみえた。

(4)地域との関わりについて

 地域の情報を積極的に発信するほかに、地域の人が気軽に立ち寄れる場所、コミュニケーションをとれる場所であり、人々の日常の一部として地域に溶け込むことを目指していた。

5.まとめ

 このような地域の中で店主が一人ひとりに関わることで生まれる街の本屋の特徴は大型店舗とは異なる役割と魅力を持ちうると思われる。その役割や魅力は、来客者にとって”街の中で安心できる場所”に繋がっている。現在、街の中で安心できる場所という存在はなかなかない。しかし、街の本屋がその一部になり得る場所であり、これからの本屋の一つのあり方であることを提案したい。

(表1)本屋の5つの分類
(1)大型
 売り場面積・蔵書数に圧倒的な数を誇る MARUZEN&ジュンク堂渋谷店など
(2)多目的型
 カフェなどの飲食、雑貨・古書・インテリアの併売 B&Bなど
(3)おすすめ型
 文脈棚など種類別による棚作り 従来堂書店など
(4)専門型
 特定の分野に特化している 猫本専門書店、書肆吾輩堂など
(5)従来型
 昔からある普通の本屋 一二三書店など

(図1)実際の本屋を利用する理由(グラフ)



2003-2015, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2015-01-25更新