卒業研究要旨(2014年度)

高齢者施設のスタッフと入居者の会話からみるケアの質

2014年度卒業研究 空間デザイン研究室 奈良麻衣子

1.はじめに

 本研究では、ユニットケアの実践を目指している特別養護老人ホームを対象に、スタッフのケアに注目する。特に、スタッフがケアを行う際の入居者とのコミュニケーションに焦点を当て、コミュニケーションからケアの質を読み取り、問題点を明らかにする。

2.調査概要

 ユニット型特別養護老人ホームM施設(図1)において、2ユニットのスタッフ5名を対象に追跡調査を行った。7:00〜19:00の間、1分おきに1日の行動・居場所を記録した。

3.結果

(1)スタッフの介護行為(図2)

 食事・入浴・排泄等の基本介護が最も多く、5割以上を占める。コミュニケーションを伴う場面は2割弱ある。スタッフの居場所は入居者の居場所である居室・リビングや、キッチンが多く、7割を超えている。

(2)スタッフの声かけ

 声かけは2ユニットで合計465の声かけが観察された。場所は、リビングが最も多く、次いで居室だった(図3)。声かけの内容に応じて(表1)の4種類に分類してみると、「介護・指示」が多く、声かけの6割以上を占めている(図4)。リビングでは食事に伴う「介護・指示」が多く、居室では「様子見」が多かった。「応答・会話」は主にリビングであった。

(3)入居者ごとの声かけ

 スタッフの声かけの量を入居者ごとに比較すると、入居者によって量や質に大きな差がみられた。(図5)声かけの多さは、入居者の滞在場所や性格とも関連するが、スタッフの介護方針との関連をみてとることができた。効率的に介護を遂行するために、ユニットでは介護の必要度によって入居者のテーブルが分けられており、声かけの量も必要性の高いテーブルの入居者が多くなる傾向がみられた(図6)。介護もコミュニケーションもケアの必要な人に重点を置いており、その一方でケアのあまり必要ない入居者に対しては関わりが薄くなっていることが分かる。

4.まとめ

 ユニット型は家庭的な暮らしや個別ケアを目指した施設である。効率を求め、ケアの必要性のある入居者に重点を置くことでケアのあまり必要ない入居者と関わりが薄くなってしまうことは、家庭的で豊かな暮らしとは言えないだろう。本来なら、もっとコミュニケーションが取れるであろうケアのあまり必要のない人とも関わりを多くもつことで、生活・ケアの質も上がるのではないだろうか。

(図1)M施設の概要
ユニット型の特別養護老人ホーム。10〜11人ごとの独立した小規模生活単位が各階2ユニットずつ、合計6ユニットある。(うち1ユニットはショートステイ専用。)
調査日時:12月16日(火)7:00〜19:00
調査対象:3・4F西ユニット(スタッフ5名、合計38時間)

(図2)スタッフの介護行為(グラフ)
(図3)声かけが行われた場所(グラフ)
(図4)声かけの頻度(グラフ)
(図5)入居者ごとの声かけ(グラフ)
(図6)食事時の座席配置

(表1)声かけの分類
 ・介護・指示: 食事・入浴・排泄などの介護を遂行するための声かけ
 ・様子見: 入居者に対する挨拶や、軽く状況を尋ねて様子を見るための声かけ
 ・状況説明: 現状を説明するための声かけ
 ・応答・会話: 入居者の意向を尋ねて提案したり、互いのやり取りが行われる会話



2003-2015, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2015-01-25更新