卒業研究要旨(2015年度)

人が作り出す「広場の魅力」

2015年度卒業研究 空間デザイン研究室 秋山美紀

1.研究目的

 広場の居心地や魅力をつくり出す要素は、デザインや立地、併設機能など様々である。この研究では“人”に焦点を当て、立地やデザインがつくる環境だけではない、人によってつくられる居心地の良い広場の魅力を明らかにすることを目的とする。

2.研究方法

(1)評価実験
 15名に30ヶ所の広場の写真を見せインタビューを行い、心理的・要素的に評価している項目を抽出する。
(2)広場観察調査
 オフィス街にある3か所の広場を対象とし、平日・休日1日ずつ、10:00〜18:00まで観察調査を行った。

3.広場の居心地

 評価実験から、居心地の良さを「集中」「交流」「安心」「共感」に分類した。この4つは、その時の心的状態<落ち着き-活気>と、<他者に対する開放性/閉鎖性>を軸として図1のように位置づけられる。「集中」「交流」は同じ目的を持って過ごしている均質的な環境で、自分だけ、自分たちだけの世界に入る、他者に対して閉鎖的な過ごし方である。「安心」「共感」は自然に自由に過ごせる環境で、他の人と環境を共有するような、他者に対して開放的な過ごし方である。

4.広場の観察結果から見る広場の特徴

<丸の内ブリックスクエア>
 全体的に女性の利用者が多い。年代は幅広く分布し子供や60歳以上の人も見られる。他の広場よりグループ利用が多く、行為は会話が多く、賑わっている。平日も休日も主に遊びにきた人が主に利用しており、平日の昼のみ会社員の利用が目立つ。

<汐留ゼロスタ広場>
 全体的に男性の利用者が多い。年代は、平日は40代以上の利用が多く、休日は30代以下の利用のほうが多い。行為は、平日はスマホ、休日は会話が多く占める。平日は会社員男性の利用がほとんどであった。

<新宿55広場>
 男女比がほぼ半々で、1人の利用者が多い。平日は会社員の年代が多く、近隣の会社員による利用が多いと思われる。休日も会社員の利用が見られるが、親子連れや若い人の利用が増え、遊びに来た人が多くなる。行為は、平日はどの時間帯も飲食が多く、休日になると会話も増えるほか、多様な行為を見ることができる。

5.居心地から見る広場の特徴

 丸の内は、平日は場所ごとに「交流」する場所と「集中」する場所に分かれていたが休日は広場全体が「交流」の場所として賑わうようになった。休日は利用者が多くなることで多様性が失われ、他の目的を持つ人や目的を持たずふらっと訪れた人が使いづらい雰囲気が生じた。
 汐留は、全体的に利用時間が短く人の移り変わりが激しく、同時に利用している人数は少ない。均質で、短時間の「集中」や一時待機場所のような使い方がされており、他者に対して閉鎖的であった。
 新宿は、同じ空間の中で「交流」、「集中」、「安心」、「共感」の4つの要素が混在していた。人の密度が高いわけではないが、距離が離れすぎてもおらず程よい関係が保たれていた。自分の世界に集中する過ごし方も、人と空間・時間を共有する過ごし方もできるなど、他の2つの広場では見られなかった多様な過ごし方が見られた。

6.まとめ

 新宿55広場は、他の2つの広場に比べ、お互いに気配を感じつつも自由に振る舞え、それぞれの存在を認めてくれる広場であった。ただ人が多いというだけでなく、お互いに直接的な関わりはなくても何となく利用者同士に共感が生まれ、安心が感じられる広場は、様々な人の様々な過ごし方が受け入れられる魅力ある広場と言えるのではないか。

(表1)調査対象地
丸の内ブリックスクエア
 立地:千代田区丸の内、敷地面積:45×40.5m2、竣工:2009年4月
 特徴:「緑豊かな憩いの場」をコンセプトにつくられた。ベンチがあらゆるところに設置されている。
 調査日:11/13・11/22
汐留ゼロスタ広場
 立地:港区東新橋、敷地面積:45×35m2、竣工:2003年4月
 特徴:イベントスペースを有する広場。椅子の密度が低く広々としている。通り道に対して開けている。
 調査日:11/20・12/6
新宿55広場
 立地:新宿区西新宿、敷地面積:35×55m2、竣工:1974年9月
 特徴:水と緑のあるサンクン広場。中央にテーブルと椅子が配置され、端の方にベンチが配置されている。
 調査日:12/4・12/5

(図1)広場の居心地の分類



2003-2016, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2016-02-05更新