卒業研究要旨(2015年度)

高等学校家庭科住居領域における学習・指導実態とカリキュラム構成

2015年度卒業研究 空間デザイン研究室 岩井沙都美

1.はじめに

 家庭科(家政学)には、家族・家庭領域、保育領域、高齢者・福祉領域、食物領域、被服領域とあり、住居領域も一つの柱を担っている。しかし、家庭科の授業の中で軽視されているように思われる。本研究は高等学校家庭科住居領域における学習・指導実態を生徒・教員の両視点から調査し、指導上学ぶべきカリキュラムと比較、教材や教科書を分析することで、住居領域の現在の位置づけを見直すとともにその要因について追求することを目的とする。

2.研究方法

(1)文献調査
家庭科教育及び住居領域学習の歴史的変遷を把握するとともに学習指導要領・教員視点の既存研究を調査。
(2)アンケート調査
実施日:11月16、19、20日
対象:実践女子大学1年生125名住居領域に関しての学習・指導実態を履修科目・学習経験・学習内容・学習希望内容などの項目で調査。
(3)教科書分析
家庭科教科書6出版社、3改訂分、2科目
(4)教材分析
視聴覚教材8種、シール教材3種、デジタル教材2種

3.家庭科について

3-1.歴史的変遷:

 現行の家庭科は1947年(昭和22)の教育基本法および学校教育法の公布による教育改革によって新たに誕生し、1994年に男女共通科目となった教科である。(文献i)

3-2.科目・単位数:

 アンケート調査によると、2単位の「家庭基礎」を選択している学校が77%と多く、4単位の「家庭総合」「生活デザイン」は少数派であった。家庭科の学習時間が縮小される傾向が窺える。一方で、学生による「これから生きていく上で役立つ教科」としてのランクは外国語に続き2位であった。授業に対する評価では、「役に立つことが多い」、「必要な知識・技術が身につく」という意見が多い。”いま”よりも”未来”で必要になる教科として授業単位数を見直すべきだと考える。

4.住居領域について

4-1.歴史的変遷:

 ”住生活”は1956年に家庭科教育から一度消滅し、1963年に復活した。1982年頃には選択科目の一つとして独立していた。(文献i)

4-2.教員の専門性と授業時間数:

 家庭科教員の専門性は食物系34%、被服系31%に対して住居系は6%と圧倒的に少ない。授業時間数は”食生活”が平均18.8時間に対して”住生活”は平均5.6時間だった。(文献ii)

4-3.教科書分析:

 「家庭基礎」「家庭総合」における教科書中のページ数割合は”食生活”が約1/4を占め、他の領域が10-15%ずつである。教科書自体はこの10年で約20ページ増加したが、領域別にみると”家族・家庭””住生活”はページ数が減少した。

4-4.学習・指導実態:

 アンケート調査によると、住居領域を学習していない学生は13%、学習したが内容を忘れた学生が39%だった。学んだ内容については、住居の機能・役割や高齢者の安全な住居など座学的な学習経験がみられた。一方、学びたい内容については、住居の設計やコーディネートなど実践的・体験的学習に関する回答が多かった。文献によると、教員が教える必要がある内容としては、住居購入の費用や家賃など将来に役立つ知識が挙げられた。(文献iii)

4-5.教材分析:

 視聴覚教材は地域の気候、住居の維持・管理、災害対策など数種類あるが、約20分の内容で12,000〜15,000円と高価である。シール教材は住居の設計を簡単に行えるようになっているものの、素材が限られている。使い方に慣れるまでに時間のかかるデジタル教材と含め、少ない授業時間数の中で扱うには取り入れづらいものとなっている。

5.考察・まとめ

 住居領域は専門としている教員が少なく、授業・実習への苦手意識がある可能性がある。授業時間数も縮小気味であり、広く浅い教科書通りの講義形式になりがちである。より実践的・体験的に学びたい・学ばせたいという教員や生徒の思いを実現できていない実態が捉えられた。 実習時間の確保、他教科・他領域との兼ね合いなども考慮し直す必要もあるが、短時間・低コストで簡単に扱える教材を開発することで、指導しやすく学びやすい授業にしていける可能性がある。

(参考文献)
i.池崎喜美恵他、家庭科教育、学文社、2011
ii.奈良女子大学住生活学研究室、住生活と住教育、彰国社、1993
iii.湯川聰子、教員の立場から見た住居領域について、日本家政学会誌Vol.45 No.5、社団法人日本家政学会、1994



2003-2016, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2016-02-05更新