卒業研究要旨(2015年度)

ここで生きる!

2015年度卒業研究 空間デザイン研究室 柴田紗代

1.はじめに

 新潟県妙高市矢代地区は高齢化や過疎化が進み、地域としての自治や共同体としての機能が衰える未来も遠くはない。しかし住民は愛着を持ち、ここを選んで生活を営み、ここで人生を終えるという覚悟をもって生きている。そう考える人にいくら最先端であろうと、都会で受けられるものと同じサービスや環境を提供しても意味がない。この場所だからできることや環境を活かしながら、生涯を通じてここで生きることをサポートできる場所を提案する。

2.対象敷地概要

対象地:新潟県妙高市旧矢代小学校跡地
敷地面積:28083m2
 矢代小学校は、2013年に少子化の煽りを受け閉校となり、すでに取り壊されている。現在はその跡地に、今年度から運営を開始する特別養護老人ホームが建設中である。
 敷地のある矢代地区は、新潟県西部の山間部に周辺の街から切り離されたように存在する。人口1431人うち50%以上が高齢者である。地区の中にも6つの小さな集落があり、それぞれ独特の文化や風習が色濃く残っている場所である。矢代小学校は地域住民に開かれた場所であり、学校行事などはほとんどの住民が参加をしていた。小学校は住民同士や6つの集落を繋ぐ役目を果たしていた。

3.設計計画

3-1 コンセプト

<記憶を受け継ぎ、この場所に愛を持って生きる>
 高齢化が進む矢代地区にも、今後老人ホームの需要は高くなると考えられる。今までこの敷地が担ってきた住民同士と6つの集落を繋ぐという役目を取り戻し、さらに、慣れ親しんだ愛着のある場所で人生を最後までサポートするという機能をそこに取り入れ、未来に受け継いでいく。

<新しいことに出会い、昨日と違う今日を生きる>
 介護を十分に受けられる環境・機能を備えつつも、他の用途(農業研修者や観光客の宿泊、冬期の豪雪から逃れるための長期滞在、等)で利用できるようにする。様々な目的の多世代が集まり、それぞれの暮らしが生まれ、自分の生活も変化の多いものになる。また数十年後、高齢者が少なくなり介護を必要とする人が減った際でも、多くの人が利用し活気のある場所を保つことが出来る。

3ー2 デザイン

<集落の良さ、伝統を活かす>
 施設は6つの棟からなり、各12人が生活する。各棟にはそれぞれ6つの集落の特徴が落とし込まれる。自分の集落からここに出向くからこそ出来ることがあり、出会える人がいる。既存の矢代保育園を施設に連結させ、多世代が通え、出会える憩いの場になる。

<「玄関茶会」の風習を取り入れる>
 矢代地区には昔から、玄関でお茶をしたり、訪問客を軽くもてなしたりする玄関茶会という風習がある。玄関という場所故に気軽に立ち寄れ、人の輪が広がる。この風習を継承するため、部屋の形の組み合わせ方を工夫し、3~4室で1つの「玄関」スペースを設けた。外部から来る人は施設の入口として、入居者は自分の部屋の延長として利用することで、新たな人との出会いや居場所が生まれる。それにより認知症入居者の生活にも目が届きやすくなり、施設の利用者が支え合いながら生活することが出来る。

(図1)対象敷地
(図2)施設内部イメージ「能舞台のある施設」
(図3)玄関部分



2003-2016, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2016-02-05更新