卒業研究要旨(2015年度)

哀しみの受け皿

2015年度卒業研究 空間デザイン研究室 吉井麻裕

1.はじめに

 ー哀しい時、あなたはどこで時間を過ごしますかー「街中ではまた新たなイベントが開催されるみたい。」毎月常にイベントが企画され、表向き、街の人々の生活を豊かにしているように見えます。
 しかし一方では、パワースポットや神社仏閣巡りのブーム。休日を、“目に見えない力にすがる時間”として費やす、そんな人々もいます。
 日々の疲れや哀しみの感情を、蓄積するより前に1日の単位、1週間の単位で解消できるとしたら。そんな空間がより身近な街の中にあったら。街が見逃している、人々のSOSを受け止める空間。それが住宅街の中の哀しみの受け皿。
 ここはかつて大勢の人を湧かせ、地元住民の生活を潤していた競馬場の跡地。ダートを全力で走り抜く馬も、観客席で興奮する人も、今はいません。残されたのは空っぽの観客席とダートの名残り、そしてそれらを取り囲む塀。今ここを利用する人は、地元の中学生とランニングする人がいるだけです。
 しかし、ひとけの無くなったこの場所に、再び人々が集まります。そして今度は馬を応援する傍観者としてではなく、この場所を必要とする当事者として集まるのです。
 泣きたい時、1人になりたい時、考え事をしたい時、あなたはどこで時間を過ごしますか?

2.設計コンセプト

 ここは群馬県高崎市。高崎駅から徒歩約10分、閑静な住宅街にある競馬場跡地です。見た目は競馬場のままですが、かつての走路に囲まれた場所の地下20mに、その空間は広がります。そして日々、様々な思いを抱えた人がやってきます。

(1)「哀しみの受け皿」

 「反転した空に浮かぶ雲」をイメージした複数のボリュームが広がるこの地下空間の最下層に、哀しみの受け皿はあります。アクセス方法は地下へと続く2本の道。1周約1200mを進むうちに道幅が10m→2mへと変わり、高さは地上から-20mへ。哀しみを抱えた人はその緩やかな変化を辿り、哀しみを内包する空間へと足を踏み入れます。そこに広がるのは圧倒的な大空間や細い道、空と2人きりになれる場所、狭くなったり暗くなったりひらけたりする道。過ごし方は人それぞれ。決まったルートはありません。

(2)「感性のままに」

 最上層にあるのは誰でも自由にモノ作りや音楽活動、趣味に励むことのできる空間。やってみたいことがあるけれど家では出来ない、同じ趣味の仲間が欲しい、みんなに見てもらいたい・聞いてもらいたいものがある。そんな人々の思いが集まる場所です。工房や練習場が突如として展示場・ステージになったり、主催者の時もあればお客さんの時もある。関わり方も自由な場所。

(3)「にじむ・交わる・繋げる」

 中間の層は、各ボリュームでの活動がにじみ出し交わる場所。様々な感性のカタチは、最下層の利用者の心にも刺激を与え、次への1歩へと繋がるきっかけとなります。

3.敷地概要

(1)対象敷地:高崎競馬場跡地(群馬県高崎市)
(2)敷地面積:約100.000m2

(図1)イメージ
(図2)対象敷地



2003-2016, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2016-02-05更新