卒業研究要旨(2016年度)

Zipper City

2016年度卒業研究 空間デザイン研究室 井上愛理

1.はじめに

 東京都調布市で京王線地下化が2012年に行われたのに伴い、地上には約3Kmに及ぶ線路跡地が発生した。ここは一部の暫定駐車場を除き、現在は立ち入り禁止で、性格付けがされていない「都市の余白」として存在している。また周りの住宅も、かつて地域を分断していた線路に背を向けて建てられており、人通りが少なく閑散としている。将来は緑道となる予定だが、線路跡地は裏の空間として構成されているため、寂しい空間になる可能性が高い。私は地区を細長く横断するこの線路跡地を「まちを編み、繋ぐ場」として新たな提案をする。

2.対象敷地

東京都調布市京王線調布駅〜布田駅
長さ:約500m、幅:約8m
片側に幅約3mの生活路地が隣接する。

3.プログラム

 日本の貧困問題は深刻化しており、ひとり親世帯の貧困率は世界でワースト1位といわれている。その一方で、調布市の待機児童率は東京都で上位に位置づけられている。このような背景から線路跡地に低所得者とシングルマザーの住居と保育園、こども食堂といった必要施設を計画する。その中に味の素スタジアムで2020年に行われるオリピックによるバックパッカーが宿泊するホテルを組み込む。そして、このような人々のためにCafeなどの店を、地域の人と繋がるためにCommonspaceを設置することで、利用者同士のアクティビティが起こる。ZipperCityはプロムナードとして利用することも可能だ。

4.コンセプト

4-1 バラック

 バラックとは災害後に人々が自力再生するためにつくった一時的な住まいである。一見粗末だが、最低限の設備を備えれば十分に暮らすことが可能だ。バラックは本来自然発生的なものであるが、敢えて建築家が設計し「非計画」であったものをその反対の「計画」へ反転させる。安価に建設ができ、自力建設が故にいかなる状況にも対応できる可変性を持つバラックによって、街を縫うように建築する。

4-2 Commonspace

 Commonspaceという概念を使い、それぞれの周辺住宅の要請に応えた空間をつくる。周辺住宅の声を聞くことこそがバラックの出発点であるからだ。ShareBarracksは線路跡地だけでなく脇道にも入り、アメーバのように周りに触手して寄生していくことで街を繋げていく。しかしバラックであることから減築や増築が容易であり、周りの変化に柔軟に応える。彼らが建設を手伝うと調布市がその分のお金を補助するシステムとする。

5.設計方法

 構造は単菅パイプで、床スラブは足場や間伐材を使用する。調布駅周辺はビルが多いため大きなスケールに、そして布田駅に向かうに従って住宅地に馴染むよう小さく細かく設計する。調布駅周辺はホテル、大通りや道が交差している場所には店を、住宅地には低所得者住居と保育園、こども食堂を集中させる。

(図1)敷地地図
(図2)敷地模型

→卒業制作紹介

2003-2017, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2017-01-21更新