卒業研究要旨(2016年度)

子育てひろばの環境のあり方が親子に与える影響

2016年度卒業研究 空間デザイン研究室 大野瑞季

1.はじめに

 子育てひろばは、子育ての孤立化で感じる不安や負担感をなくし気軽に集うことの出来る場としてつくられた。場所の提供だけでなく、子育て相談や学びの場としてなど様々な役割がある。子どもだけでなく母親にとっての出会いやくつろぎの場としての機能も大切である。そんな中で、親子に対する子育てひろばのスタッフの距離(関わり方)や環境のあり方の違いに注目し、その違いが親子に与える影響や居方の多様性を探ることを目的とする。

2.調査対象と方法

 (表1)の同じ市で規模が違う二箇所の子育てひろばを対象とした。開館時間である10:00-16:00の間、15分毎に親子とスタッフの行動を記録。母親へのアンケート調査(Kひろば24枚、Pひろば20枚回収)。スタッフと母親数名にヒアリングをした。

3.結果と考察

(1)行動調査

 行動調査から過ごし方の違い(表2)、アンケートとヒアリングからそれぞれのひろばに対する意識の違いが分かった。 Kひろばでの利用目的は「こどもが様々なものに触れられる」「こども同士が交流できる」。訪れ方は「友人と約束して」「気が向いたとき」という声が多かった。

 それに対してPひろばでの利用目的は「スタッフと話したい」「子どもの面倒をみてもらう」「気分転換」。訪れ方は「予定がなければいつでも」「気が向いた時」という声が多かった。

 こうしたことから、Kひろばは、自由な過ごし方が出来るので特別感もあり、ふらっと気が向いたときにも訪れられ、子どもの成長と自分の学びの場所になっている。一方、Pひろばは、スタッフや利用者に会うことが気分転換になることに繋がっている。訪れれば誰かしらがいて、スタッフも利用者も受け入れてくれる場所と言える。

(2)スタッフとの距離感の違い

 Kひろばでは会話を楽しむ人もいれば、相談する人もいた。各々が過ごしやすいように適度な距離を保ちつつ見守ってくれている。安心感はありつつ近すぎない距離を保っているため、固定的な関わりにならず自由に振る舞い、居場所を選択することが出来る。  Pひろばでは、人が交流の輪の形や大きさを変化させ繋がり合うネットワークの役目を自分達で展開している。会話を楽しんだり、情報交換や知識を共有し双方が楽しんでいた。また利用者に常に寄り添って子どもを見ているため安心することが出来るので、母親同士で工作をしたりと母親同士で喋るなどつかの間の自分の時間を持つ事が出来る。

4.まとめ

 Kひろばは、子どもが地域の人や子ども同士、遊びに触れ探求出来る場を提供している。広い空間の中、パブリックでありつつも同じような価値観も持った人が混じり合い、母親にとっても孤独感を感じることはない居場所と言え「自由に過ごし方の選択出来るまちのひろば」のような感覚を持つことが出来る。

 Pひろばは、大人が主体となって繋がれる場を提供している。互いに相手を向かいいれ安心感を持って社会に関われるアットホームな居場所と言える。子どもにとってもルールを学んだり、遊びを作り出せる場所になっている。大きな家族とともにいてほっと出来る自分の「家の離れ」であるような感覚が芽生えるのではないだろうか。

(表1)対象ひろば概要
<Kひろば>
開館日:火〜土曜日
調査日:2016.11.17(木)・22(火)
立地:最寄駅から徒歩15分
内装:遊び場をコーナー分け、マットの色分けやインテリアを使用して仕切っている(0歳児専用のスペースも確保されている)
規模:面積:2階/970m2
利用者人数/日:10組前後
スタッフ:2人(常時)
利用料:無料、入退館時に登録カードで受付をする(ひろばでネームバッジを70円で購入か手作りのものを入館時に身につける)
運営方針:
こどもが様々な世界に触れていくために環境を探求させる。場所を共有することで家では出来ない親子同士や地域のつながりを提供するととともに社会的ルールを自然と身につけてほしい。

<Pひろば>
開館日:月〜土曜日
調査日:2016.10.18(日)・11.16(水)
立地:最寄り駅から徒歩6分
内装:もともとパン屋だった場所の間取りをそのまま使っている
   玩具をコーナー分け(仕切りは特にない)
規模:面積:47m2
利用者人数/日:90組前後
スタッフ:2人(混雑具合により変化する)
利用料:無料、入館時毎回名前を記入する(ひろばから指定されたネームバッジを入館時に身につける)
運営方針:
なにかをしてあげるのではなく、利用者たちが支え合うサポートをする。そのためのきっかけ作りを行う。また、参加することで自分が何か役に立っていると感じられる居場所であるとともに活動の場であってほしい。

(表2)過ごし方の違い
<Kひろば>
母親同士:
・同じ場所に居合わせた人と会話
・様々な場所で新たな輪が生まれる
子とスタッフ:
・順番や気遣い、共に使うことを教える
・制限をしたり、叱るのではなくひとりひとりの子どもの意志を尊重して接していた。
遊び方:
・関心のあるものを手に取って遊ぶ
・遊具そのもので遊ぶ(ボールを転がす、列車の線路を並べその上を汽車を走らせるなど)

<Pひろば>
母親同士:
・利用者同士が挨拶を交わす・固定的な関わりではなく交流の輪が広がる
子とスタッフ:
・遊具の使い方、順番やルールを教える
・こどもはスタッフに自ら遊びを持ちかけたり、遊びを発展させていた。
遊び方:
・ごっこ遊びや、独自の遊びが多い(遊具を用いた他の遊びのこと。スポンジ積み木を頭の上にのせたバランスあそび、キッチンセットでおままごと+お弁当屋さんと配達など)



2003-2017, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2017-01-21更新