SpaceDesign Labo, JISSEN Univ.
2016年度卒業研究 空間デザイン研究室 大瀧志穂
社宅はかつて、企業が育み、企業と共に成長する街であった。しかし時代やニーズの変化によって「住みたい」と思う人が減ってきている。同じようなプランの住戸が並び、重たい扉で閉ざされた社宅は、内と外のつながりが弱く、どの家にどんな人が住んでいるのか分からないということが起きがちである。せっかく集まって住んでいるのだから、その利点を取り入れて生まれる、より良い人やものとのつながり方があるのではないだろうか。強制されたコミュニティを築くのではなく、住む人同士が適度な距離感を保ち、互いを知り広がる暮らしを提案する。
静岡県富士市原田 日本製紙アパート 約8000m2
・南側A棟に50戸、北側B棟に30戸、計80戸の家があるアパート。5階建ての階段室型。
・西側は岳南鉄道の線路が走っており、周りは工場や倉庫に囲まれている。
・敷地北側は駐車場、南側はグラウンドがある。・通りから入り込んだ場所になるので、地域住民とのつながりは薄い。
社宅という集合住宅で、共に住まうこと、暮らすことに対して共同体意識を持つことのできる社宅を目指す。人が集まって住むことで、外とのつながりを持てるような生活ができる。内と外の境界を緩やかにし、外と関わったり集まることを強いられるのではなく、自然に感じられる適度な距離感を保ちつつ生活できる場所となる。
900mm×900mm×900mmの立方体を基本とし、キューブを組み合わせイエとする。それらを4戸ひとかたまりにし円にのせる。この円は人やものとの出会いの縁を形にしており、円の中だけでなく、円と円のつながりを表している。円のレベル差を活かし空間を緩やかにつなげた。
寝室、子供部屋、収納部屋、トイレ、洗濯室をプライベートな空間とし、各部屋をキューブとして組み合わせ、1つのイエとする。LDKはイエと切り離し、「縁」の中にバラバラに配置する。風呂は4戸で共有する。基本的な生活は、「縁」の中で完結できる。
家出の生活を箱の中に収めず、「縁」のなかに生活に必要な機能を散らせることで、イエからふらりと出てゆける、部屋の延長のような空間とした。動線が交わることで、人や人の生活が感じられるようになり、共有空間が増え、人との繋がりが生まれるようになる。また、4戸ひとかたまりにすることにより帰属意識を持つことが出来るが、4戸の中だけでの生活と窮屈にならないように、「縁」同士のつながりも持たせた。
元来社宅には、働く場に根ざした共同体の構築が想定されていた。共に暮らすことで一体感が生まれ、仕事にも生活にも良い影響を与える。社宅には、仕事と日々の生活のつながりがある中で感じられる良さがあると思う。そんな、関係が近しい人同士が集まって住むことのメリットを引き出し、一般の住宅では出来ないような暮らし方を提案する。こういった生活は、近隣関係の希薄化が進む現在に必要なのではないだろうか。
(図1)対象敷地
(図2)4戸のひとかたまり
(図3)全体模型
2003-2017, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2017-01-21更新