卒業研究要旨(2016年度)

マンガに見る日本の子供部屋の変遷

2016年度卒業研究 空間デザイン研究室 田中愛理

1.はじめに

 戦後、子供部屋が普及したが、その当初と現在の子供部屋では環境や求められる機能に変化が生じているように思われる。本研究では、1960年代~2010年代に掲載されたマンガに着目し、描かれる子供部屋の変化を探る。

2.調査方法

 1960年代から2010年代のマンガ(83作品)に描かれている部屋(125室)を、年代別に分析した(表1)。対象を小学生から高校生の男女とし、使用者の情報、生活環境、部屋の様子、物、行動などに注目した。

3.結果

3-1.部屋・スタイルの変化

 60年代は子供部屋のない子供もいたが、80年代以降ほぼ1人部屋となり、2人以上で使用していた子供の数も減少した(表2)。80年代以降和室と洋室の数が逆転し、ほぼ洋室へと切り替わった。これに伴い部屋でのスタイルも変化した。就寝において布団からベッドへと変化し、居場所においては座布団からカーペットへと変化したが、床座での過ごし方は継続している。勉強においては座卓からデスクへと変化した。しかし洋室に移行するよりも先にスタイルのほうが変化している。

3-2.部屋のしつらえの変化

(1)装飾
 花は徐々に減少し、80年代から観葉植物へと移行した。ほぼ全年代で見られる写真立て、額縁、ポスター等は80年代まで増加しているがそれ以降は減少し、代わりに90年代からボードやガーランドなど壁を使った装飾や、2000年代から装飾のみが機能の物で装飾されるようになった。当初こけしや人形、車の模型が飾られていたが、80年代以降フィギュアへと変化していった。

(2)収納
 タンスやクローゼットといった箱物家具は継続的に存在するが、本棚は大きく減少している。70年代以降壁を利用した収納や、80年代以降ハンガーパイプ、オープンラックといった見せる収納が増えた。また、かごや小物入れといったボックス収納の種類も増加した。

3-3.行為による物の変化

(1)遊ぶ
 主に小学生男子の部屋で見られた、けん玉、こま、ボードゲーム、といった玩具は減少し、2000年代で消失したが、代わりに90年代から電子ゲームが登場した。

(2)見る・聴く
 70年代のレコードプレイヤーから80年代以降ラジカセ、ミニコンポへ、その後携帯CDプレイヤー、最終的にiPod等の携帯型音楽機器へと変化した。空間を共有する音楽から1人の世界で聴く音楽へと変化した。テレビは90年代から2~3割の子供部屋で見られた。

(3)コミュニケーション
 80年代に電話、90年代にパソコンが登場し、部屋にいながらも外部の人とコミュニケーションが図れる機能が加わった。90年代に携帯が登場するとともにパソコンや電話は減り、両方の機能が携帯へ移行したと思われる。これらの電子機器は主に中高生で見られる。

3-4.属性による違い

 小学生の部屋は時代によってさほど大きな変化はないが、変化の著しい情報機器や映像・音楽機器が多くみられる中高生は社会変化を大きく受けやすく、1人で楽しめる充実した部屋へと変化した。男女の違いをみると電子機器・スポーツ用品においては男子の所有率が高く、装飾品や身だしなみに関わる物においては女子に多いという違いがみられた。

4.まとめ

 社会の変化や技術の進歩がマンガにも反映されており、これらは子供部屋の持つ機能や子供部屋に対する意識の変化に影響していると思われる。しかし、おもちゃ、音楽・映像、コミュニケーションの機能を一身に持ち歩くことのできるスマートフォン等の携帯電話の普及により、子供部屋への意識は変化していく可能性がある。

(表1)調査対象数
(表2)子供部屋の有無と使用人数
(図1)1960年代の小学生女子(ひみつのアッコちゃん)
(図2)1980年代小学生女子(天然コケッコー)
(図3)2010年代小学生女子(銀のスプーン)



2003-2017, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2017-01-21更新