卒業研究要旨(2017年度)

小規模ユニット型高齢者施設の課題 〜スタッフのケアに着目して〜

2017年度卒業研究 空間デザイン研究室 緑川あかり

1.研究背景・目的

 ユニットケアを導入している特別養護老人ホームM施設は開設から5年が経過するが、いまだに生活感のないセミプライベート空間における入居者の無為行為が多く見られる。

本研究では昨年に引き続きセミプライベート空間の改善を試み、その変化が入居者・スタッフに与える影響を検証するとともに、スタッフの介護の質に注目して今後に改善すべき課題を見出すことを目的とする。

2.対象概要・研究方法

 対象施設は2012年に開設した立川市に建つユニット型特別養護老人ホームM施設である。定員は63人(ショート含む)。対象空間は4階の西ユニットとした。対象となる入居者は11人、平均要介護度は3.5である。(表1のプロセスで環境改善を行い、その前後において(表2)の検証調査を行なった。

3.ユニット改善とその効果

 スタッフとの話し合いの末、(図1)を提案し11・12月に家具や設えの購入・設置を行った。しかし改善実施前後で入居者の行動や居場所にほとんど変化はなかった。(図2、3)

 入居者一人ひとりの一日の居場所の推移を見たところ、改善前後で一日の動きに全く変化がない入居者も見られ、スタッフのケアによって生活が固定化している可能性が示唆された。

4.スタッフのケアの質

 現在のケアの質を捉える上で開設当初の2012年と比較した。

 (図4)は4階ユニットにおける介護行為の変化を示す。食事や入浴等を含む基本介護が増加している一方で、入居者との関わりが強い生活援助が著しく減少していることが分かる。

 (図5)は入居者調査の際に拾い上げたスタッフによる声かけを「介護・指示」「様子見」「回答・説明」「応答・交流」の4項目に分類して集計した結果である。

声かけに関しては、全体的に2012年と比べて半分以下に減少しており、特に「応答・交流」の減少は顕著である。これらのことから、本来入居者との距離を縮めて個別に関わることを目指すユニットケアが、基本介護を優先して入居者との直接の関わりが薄いケアへと変貌していると考えられる。

5.まとめ

 今回リビングの環境改善を行い、環境の変化だけでは入居者に対して与える影響が極めて小さいことが分かった。現在入居者にとってリビングは「自分の主体的な生活の場所」というよりも「ケアを受ける場所」「生活の基本行為を行う場所」「スタッフに指定されて行く・いる場所」になっていることが考えられる。

 一方で、スタッフの入居者に対する関わりが入居者同士の関わりに影響を及ぼす場面が多く見られた。このことから、スタッフと入居者の関わり方の変化によって入居者のリビングに対するイメージも変化すると言える。

(表1)改善のプロセス
(表2)検証調査
(図1)ユニット改善の提案内容
(図2)改善実施前後の入居者の居場所(グラフ)
(図3)環境改善実施前後の入居者の行為(グラフ)
(図4)4階ユニット介護行為の5年間の変化(グラフ)
(図5)スタッフの入居者に対する声かけの変化(グラフ)



2003-2018, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2018-01-23更新