卒業研究要旨(2017年度)

地域とつながるゲストハウスの魅力

2017年度卒業研究 空間デザイン研究室 永田早紀

1.はじめに

 宿泊施設としてのゲストハウスは、旅館業法上、簡易宿所に分類され、1.素泊まり、2.ドミトリーと呼ばれる相部屋形式、3.共有空間を有する、4.宿泊費が安価であることを特徴としている。またゲストハウスの一部には、カフェ・バーなどの飲食空間を併設し、旅行者に限らず、地域住民や通勤者を含めた多様な属性の人々が集い、交流できる場として経営を行う事例がある。本研究では、飲食空間を併設する3つのゲストハウスを対象に、ゲストハウスの魅力を明らかにし、地域における可能性を見出すことを目的とする。

2.調査概要

 表2の飲食空間を併設する3ヵ所のゲストハウスを対象に表1の調査を行った。

3.調査結果

(1)利用者ヒアリングから分かった魅力要素

1.「出会いがあること」
宿泊者は、挨拶からはじまり、一緒に出掛けたり、人によっては旅行後も会うといった交流が行われている。また非宿泊者もカフェで外国人との交流やスタッフとの会話を楽しんでいることが分かった。

2.「情報交換ができること」
宿泊者同士での旅の情報交換や、スタッフから情報を教えてもらうなど、ゲストハウス内で旅の情報を得ることができることが分かった。

(2)3施設に共通して見られた取り組み

1.「誰もが集い交流が生まれる環境・仕組みづくり」
カフェ空間、イベントがあることで、旅の情報交換や会話が生まれやすく、誰でも仲良くなれるような仕掛けが用意されている。

2.「新しいことを取り入れる」
イベント内容やインテリアなど、良くなると思ったことは、スタッフの意見を取り入れ、日々新しい取り組みを行っていることが共通して見られた。

3.「スタッフの積極的な関わり」
スタッフは、宿泊者におすすめの場所を教えたり、声をかけたり、仕事時間外に出掛けることもある。また宿泊者と非宿泊者をつなぐこともある。スタッフが積極的に利用者に関わる様子が共通して見られた。

4.「つながり」から「つながり」で集まった人々
非宿泊者、イベント開催者など、訪れる人のきっかけは、SNSに加え、人からの紹介など、何らかのつながりがあることが共通して見られた。

(3)各ゲストハウスに見られた特徴的な取り組み

1.エンブレムホステル西新井の取り組み
 イベント内容が豊富で、異文化体験、地域観光ツアーも行っている。イベント時にゲストをサポートする役割として地域住民をサポーターとして取り入れ、ゲストと地域住民、スタッフとの関係をつないでいる。

2.Little Japanの取り組み
オーナーが地域イノベーターとして活躍し、カフェを地域住民だけでなく地域活性活動を行うイノベーターが集まる場として、勉強会やイベントを行っている。

3.シーナと一平の取り組み
“タウンステイ”というコンセプトで、まち全体を宿ととらえ、宿泊者にまちの飲食店、銭湯を紹介している。カフェは、何かを実現したい人のチャレンジ空間として、毎日違うスタッフが異なる形で営業している。

4.まとめ

 どのゲストハウスも、宿泊者にとっては、出会いがあり、様々な情報が交換ができる魅力ある場になっていた。さらに地域を良くしていきたいという共通のマインドを持つ一方、目指す姿や取り組みに少しずつ違いが見られ、それぞれの魅力ある場所になっていた。地域にとっては、地域住民が集い交流ができる拠点として、さらに、地域で活躍する人をアシストする場としても提供されるなど、地域を活性化させようとする拠点になっていた。ゲストハウスは宿泊施設としての域を超え、地域をつなげる存在になっていると言える。

(表1)調査方法
(1)ホームページ・雑誌・文献からの情報収集
(2)スタッフに対するヒアリング調査(各施設1名ずつ):利用者との関わり方、活動内容、目的、課題、目標、などを把握。
(3)宿泊者・非宿泊者に対するヒアリング調査(計45名):他者との関わり方、過ごし方、ゲストハウスに感じる魅力などを把握。

(表2)対象地概要
エンブレムホステル西新井:
DEEPな下町と繋がる、地域交流型コミュニティホステル
日本初のグローバルホテル運営会社として、世界中に地域交流型ホテルを展開し、人と人がつながる面白い場を作っていくことを目指している。エンブレム西新井は、ビジネスホテルを改修したゲストハウス。
Little Japan:
地域と世界をつなぐ、ゲストハウス「LittleJapan」
農林水産省を退職した柚木氏が立ち上げ、地域の資源を生かした、海外の方が必要とする様々なサービスを作っていくことを目指している。Little Japanは、空き家を活用したい、という思いから住居を改装したゲストハウス。
シーナと一平:
布で世界とつながりミシンでまちとつながる
豊島区によるまちづくりの一環で行われたリノベーションスクールで誕生したメンバーにより設立され、空き家などを活用したまちづくりを目指している。シーナと一平は、築40年超のとんかつ屋「一平」をリノベーションしたゲストハウス。



2003-2018, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2018-01-23更新