卒業研究要旨(2017年度)

認証保育所から学ぶこども力

2017年度卒業研究 空間デザイン研究室 高橋純未

1.はじめに

 認証保育所とは保育ニーズの増加に対応するため、認可保育所に必要な敷地や保育士の基準を緩和した東京都独自の保育所制度である。本研究ではそのような限られた環境を逆に活かして独自の保育を実施している2つの保育園に注目し、そこでこそ得られるこども力を見出して行く。

2.調査対象と方法

 表1の2か所の保育園を対象として、行動観察調査(9:30~18:00の間、園児の遊びの様子や園児同士の関わり等を撮影・記録)および園長にヒアリングを行った。両園とも25人、35人と小規模で園庭がないため毎日近所の公園や自然など外に遊びに行くことが特徴である。調査日の中で、G園:室内55場面・室外33場面、W園:室内56場面・室外38場面、の遊びの場面を抽出した(同じ遊びの場合は1場面とする)。

3.結果

 両園での遊びの特徴を、モノとの関わり・こども同士の関わり・空間の使い方に分けて考察する。

3‐1.モノとこどもの関わり

 モノを使用して遊ぶ場面を(1)モノ本来の遊び方で遊ぶ(2)代用して使う(3)見立てて(なりきって)遊ぶ(4)元々あるモノを発展・展開する(5)自分でモノを作り出す、の5つに分類した(表2)。両園とも(1)モノ本来の遊び方で遊ぶ場面が多かったが(2)〜(5)を合計するとその方が多く、工夫した遊びが見られる。使えそうだと感じたモノは何でも活用して遊んでおり、一つのモノから遊びが始まり次々と遊び方が変化していく。毎日様々な場所に遊びに行きそこにあるモノや環境で遊ぶことで、新しい発見や型にはまらない道具の様々な使い方を学び、こども達のアレンジが加わり遊びのバリエーションも増えていく。

3-2こども達の関わり方

 両園とも少人数のため、室内外とも異年齢が混ざり遊んでいる。高年齢児はできない子に見本をみせ、低年齢児はできない悔しさから挑戦しようとする気持ちや自分でもできることを探す。また先生のいる場に集まりやすく、ダンスや手遊びなどを行っていると年齢関係なく集まりだす。また比較的高度な遊びでも先生が一緒に遊んだり、高年齢児がやり方を教えてあげたりしながら低年齢児も参加する。普段から異年齢が混ざり合っているからこそ自然と優しさ・気遣いを学び一緒に遊ぶ楽しさをこども達が自ら発見している。

3-3空間の使い方(室内)

 両園とも室内空間では限られたスペースをこども達が工夫して遊び、場を共有し生活していた。G園では空間を自分で作り出す様子がみられた。部屋のへこみ部分に布や箱・イスなどを使い1人になれる空間を作ったり、電車の運転席を作っていた。W園では低年齢児と高年齢児は空いている場所を探して遊んでいた。低年齢児に邪魔されず高度な遊びに集中できる場所を見つけている。その様子を見た低年齢児がマネし始める様子も見られた。

4.まとめ

 認可保育所と比べ環境の制限された認証保育所であるが、こども達が工夫して生み出す新しい遊びや、空間の使い方が見られた。各年齢の人数も少なく自然に異年齢の関わりが生まれ、大人もこどもも落ち着ける家庭の様な形が生まれていた。遊びの環境が整っていないからこそ遊びに関して受け身ではなく、園児自ら遊びを見つけ出そうとする探究心が育まれ、挑戦する楽しさ、できない悔しさ、できた時の喜びが生まれるのではないか。異年齢の関わりにより低年齢児、高年齢児それぞれ学びがあり互いを高め合っている。

(表1)施設概要
G保育園:調査日:2017.10.23~26、調査対象園児数:25(0歳:4、1歳:5、2歳:5、3歳:4、4歳:4、5歳:3)
 1階に2〜5歳児・2階に乳児〜1歳児分かれて生活している。開園〜8:30の間は1階に全年齢集まる。園庭がないため毎日外に出かける。
W保育園:調査日:2017.10.17~20、11.1~2、調査対象園児数:35(0歳:3、1歳:7、2歳:7、3歳:6、4歳:6、5歳:6)
 乳児〜5歳児まで全員同じ場所で生活している。園庭がないため毎日外に出かける。
一日の流れ:登園→自由遊び→打ち合わせ・出かける準備→外に遊びに出かける→お昼ご飯→お昼寝→おやつ→自由遊び→帰宅

(表2)遊びの分類
(1)モノ本来の遊び方で遊ぶ:トランプ・カルタ・遊具で遊ぶなど
(2)代用して使う:踏み台→箱・虫網→鍋に代用など
(3)見立てて(なりきって)遊ぶ:積み木を電話・ペットボトルを花瓶など
(4)元々あるモノを発展・展開する:落ち葉の投げ合い→落ち葉に埋まるなど
(5)自分でモノを作り出す:スティック作り・伝説の卵入れ作りなど

(表3)遊びの種類例



2003-2018, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2018-01-23更新