卒業研究要旨(2017年度)

サンクンガーデンの魅力の変容

2017年度卒業研究 空間デザイン研究室 横山奈菜

1.はじめに

 サンクンガーデンとは周辺より低い場所に設けられた庭で、高低差を利用した立体的な修景効果を演出できるのが特徴である。1960年代からこの技法が定着した。そこには「取り囲みの法則」があり、広場を領域的に取り囲み、内側に包み込むことで人々をひきつけ安心させる効果がある。そこで日本のサンクンガーデンについて調査し、今までのサンクンガーデンの変容、そして今の人々の使われ方について研究を行う。

2.研究手法

(1)新建築2017年から過去30年分を読みサンクンガーデンを含む建物を集計し、30年での変化や特徴をまとめ、傾向を調査する。

(2)都内にあり「テーブルと椅子があり自由に動かし利用できる」4つの広場(表1)を対象として平日と休日でおよそ10時から17時の間、1時間ごとに張り込み調査を行なう。

3.結果

(1)文献調査

 過去30年分の新建築中、サンクンガーデンは合計47件あった。10年ごとに、1) 1987〜1997年、2) 1998〜2007年、3) 2008〜2017年で分け、各時代の特徴、構成をまとめた。(表2、表3)近年になるにつれ数は減少し、規模も大規模なものから中、小規模が多い。形は囲まれた明確なものから不規則なものが多くなり、3)の年代ではほとんどが駅直結型になっている。人が集う溜まりの場として考えられた広場から、地下空間を利用した街の結束点としての空間へと変化している。

(2)各広場の観察調査結果

 1970〜80年代に作られたG・S広場と2000年以降に作られたI,O広場とで利用のされ方に違いが見られた。G,S広場は30分以上の長時間滞在が多く、複数人での食事や会話などが多く見られた。大きな階段で地上と繋がり、四隅を囲まれた領域的な空間で、1)の年代の特徴を有している。

I・O広場は短時間利用が多く1人で休憩したり、携帯やパソコンなどの作業が比較的多かった。地下鉄とのアクセスの途中に設けられ、地上とは階段やエスカレータで繋がり、地下空間に解放感を与えるような近年の特徴が反映されている。地下と街をつなぐ結束点にあり、隙間時間で利用される場であった。

4.まとめ

 かつて都市のオープンスペースとして流行したサンクンガーデンであるが、現在も数は減少しつつもデザインに取り入れられている。時代によって目的やデザインのされ方は変化し、現在の人々の使われ方にも変化を与えていた。時代ごとにそれぞれ魅力があり、人々に利用される場となっている。

(表1)対象広場の概要
G広場(三井55広場)
オープン:1975年、大きさ:35.6×42.1m、深さ5.1m、調査日:10/26(木)、11/5(日)
特徴:憩いとたまりのプラザ。広場や緑に対してオープンな計画がされ、人の動きや店内の様子が広場全体に伝わる。3つのレベルから立体的に構成されている。
S広場(御茶の水サンクレール)
オープン:1981年、大きさ:11.6×12.6m、深さ:5.3m、調査日:10/27(金)、11/12(日)
特徴:レンガ調で、広場自体に植栽はないが、天井にルーバーがある。四隅があり、囲まれた領域的な空間。周りはカフェなど屋外でも飲食可能な店舗が隣接している。
I広場(六本木泉ガーデン)
オープン:2002年、大きさ:14.4×19.8m、深さ14m、調査日:10/24(火)、11/4(土)
特徴:地下3階に位置し、地下鉄と地上をつなげ、ガラス張りの地下改札に光を取り入れる。立体的な都市景観。赤い屋根や植栽が地上からみて明るい印象を与える。
O広場(御茶の水ソラシティ)
オープン日:2015年、大きさ:34.5×34m、深さ:6.1m、調査日:10/27(金)、11/12(日)
特徴:エスカレーターで地上と地下をつなげている。地下鉄ともアクセス可能。大きな植栽が3本地上まで伸びる。街路には面していないが地上に対して開かれている。

(表2)年代ごとの特長
1) 1987〜1997:
<コンセプト>人々が語らい、集う憩いの場を意図して作られている。街路に対してオープンだが、内部は内包的。
<デザイン>形状は正方形や長方形。四隅があり領域的に囲まれた空間。広場へ繋がる大きな階段があるものが多い。
2) 1998〜2007
<コンセプト>憩い、集うという要素に加え、都市景観、立体構造といった、地下と地上をつなげる開放的な空間を重視。
<デザイン>形状は長方形が多い。隣接店舗がガラス張りで内と外の人とが繋がる空間。複数の入口があり通り抜け可能。
3) 2008〜2017
<コンセプト>歩行者ネットワーク整備や、地下と街を繋ぐ結束点としての地下空間。地上とのアクセスの利便性を重視。
<デザイン>長方形や不規則な形状が多いアクセスの中心地として分散するつくり。エスカレーターで地上とつながる。

(表3)年代ごとの構成要素の違い
(図1)各広場の行為の割合(グラフ)
(図2)各広場の滞在時間の割合(グラフ)



2003-2018, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2018-01-23更新