卒業研究要旨(2017年度)

利用者からみるコミュニティ施設の在り方 〜ロビー空間に着目して〜

2017年度卒業研究 空間デザイン研究室 吉田香苗

1.はじめに

 昔ながらの公民館やコミュニティ施設は利用者が限られ、地域の中で「近寄りがたい場所」となっているものが多い。近年様々な人が訪れ「気軽に行きやすい場所」を目指すコミュニティ施設も現れ、そのイメージが変わりつつある。本研究ではロビー空間に着目し、現在のコミュニティ施設が利用者にとってどのような場所へと変化しているのか明らかにする。

2.研究概要

 ロビー空間に特徴があり、利用者が多かった表1の3ヶ所を調査対象として、表2の調査を行った。K施設は児童館、図書館と複合していて、ロビー空間は学習室、ロビー・喫茶コーナー、ラウンジと3つのエリアに分かれている。S施設は商業施設の7,8階部分に併設されている。ロビー空間は円形の大きな空間で、開放的な窓際には階段状のステージがあり腰掛けることができる。P施設は公園内に併設されていて公園と自由に行き来できる。館内中央のロビー空間は1階と2階に分かれていて、場所によって円テーブルや長机など異なる家具が設置されている。

3.結果

 アンケートから3施設とも「ロビー空間で自由に過ごせること」を目的に来館し、ロビー空間は「予約なしで利用できる」「長時間利用できる」ことが魅力だと感じていた。行動観察からも一日を通してロビー空間に多くの利用者が認められた。施設ごとの特徴を以下に示す。

(1)K施設

 ロビー空間に設けられたエリアごとに利用者の行為に違いがあり、学習室は勉強、ロビー・喫茶コーナーは読書や数人で飲食しながら会話、ラウンジは休憩やゲームをしている人が多い。アンケートから「一人で利用する人」が多く、ロビー空間の印象として「勉強や作業に集中できる」「静かで落ち着く」が多く回答された。他者との関わりは見られず、一人で来た人が集中して過ごせる場と言える。

(2)S施設

 一つの大きな空間の中で様々な行為が見られた。一人でも数人でも利用が見られ、後者の多くは飲食しながら会話をしたり勉強をしている。相席したり他の利用者に話しかける様子も見られた。アンケートからは「暇つぶし」「休憩」でロビーを利用する人が多く、目的を持たずに訪れて長時間過ごせる場と言える。

(3)P施設

 利用者の6割以上は中学生以下である。1階は併設された公園と行き来しながらの短時間の利用が多く、2階は一人で読書やゲームをするなど長時間の利用が多い。アンケートからも公園のついでに利用する人が多く、ロビー空間は「仲間と集まれるのが良い」という評価が高かった。グループで来て自由に遊べる場と言える。

4.まとめ

 3施設とも多くの人が気軽に利用できるロビー空間であるが、そこでの過ごし方には違いが見られた。K施設、P施設の利用者は目的が明確であることが多く、一緒に来た人以外との関わりは持たない点で共通している。一方S施設はなんとなく訪れる人が多く、他者とも関わる様子が見られた。コミュニティ施設にはS施設のように目的を持たない人でもふらっと気軽に訪れ、他者とも交流しやすい空間が必要なのではないだろうか。

(表1)対象施設概要
K施設
東京都多摩市、2011年開設
図書館と児童館が複合している。ロビー空間はソファ席のラウンジ、カフェの利用ができるロビー・喫茶スペース、作品の展示ができるギャラリーがある。
S施設
東京都多摩市、1999年開設
駅前にある商業施設の7,8階部分が公民館となっていて、駅の出張所やボランティアセンターなどが併設されている。
P施設
埼玉県三郷市、2012年開設
公園内に複合されたコミュニティ施設で公園と館内を自由に行き来できる。各室、外壁がガラス張りになっているので明るく見晴らしが良い。

(表2)調査方法
行動観察調査(場所・利用者の行為を30分毎に記録)
アンケート調査

(図1)アンケートに見るロビー空間での行為



2003-2018, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2018-01-23更新