卒業研究要旨(2018年度)

人間路地

2018年度卒業研究 空間デザイン研究室 福士花奈恵

1.はじめに

 街を歩いていると同じ形、同じ雰囲気の建物をよく目にする。人が建物を与えられ、用途を決められて行動しているように感じてしまう。そこでは、建物も人間も排除されないよう周りに合わせながら生活をしていかなければならない。建物も人間も周りに合わせることが普通になってしまっている。そこでは存在意義を見出しにくいと感じてしまうのではないか。手を加え、建物に操作されながら生活する表よりも、計画の余白である置き去りにされてしまった裏側の方が、人間の生命力を感じる。

 都市計画から外され、置き去りにされてしまった場所は人の手が加えられずに距離を置かれ自然と見て見ぬふりをされている。足を踏み入れにくく薄暗い印象を持つ路地を裏側と考える。路地にも異った種類が存在するがその中でも人の気配がほとんど無く、手を加えられない路地をイメージする。人を寄せ付けない力を持ちながら存在意味を感じさせにくい場所は自然と裏側へ行き置き去りにされてしまう。そのような雑然とした裏側部分には蓋をし表面の綺麗な部分だけが注目されることが良いことであるのかと疑問に感じる。

 独特な雰囲気を生み出す裏側は、足を踏み入れにくく、朝と夜で異なった顔を持つ。夜こそ人間の汚れた部分を集めたようで、感情がダイレクトに風景や雰囲気に表れている。また、人の感情が表現されている場所はなかなか出会うことができない。人から距離を置かれ、置き去りにされた場所にこそ、人間のエネルギーや生命力があると考える。様々な要素が詰め込まれているように、人間の様々な感情もそこには入り混ざっている。そのような場所こそ現代社会を表現しているのではないかと感じる。

 裏側という、人から距離を置かれている場所があるため、表がキラキラとしたより輝いている世界に見えるのではないか。裏側の存在意義と人間の存在意義を重ね合わせて考え、表と裏の対比を行う。また、注目される事が少なかった路地を通して裏側の可能性について考えるきっかけとなることを目差す。

2.そこで起きる物語

 都市な中に立体的な路地、隙間を作り、都市が縮小されたものを表現する。密集市街地などに形成される細い道、家と家との間を路地と呼ぶが、ここでは人の感情の交差、人と人とのあらゆる隙間を人の路地と考える。

 1箇所から発生したものが、上にも横にも広がり、気がつくと表を侵食している。完成のない場所とし、そこで訪れる人も、完成した形、完成する時が分からないものとする。また、この場所が時間をかけて大きくなったり急スピードで大きくなったり、先が読めないものとする。あらゆる隙間を隠れる場とし、他人の目を気にせずに縛られない生活を送る場所。

『そこへ訪れる人は』
・表の世界で生きることに疲れた人
・心に傷を負ってしまった人
→表からの逃げの場
・新たな居場所を求める人
・隙間を求める人
・興味本位で訪れる人

『そこで何が起きるのか』

○感情
・自分と向き合う
・同じ感情の仲間を見つける

○生活スタイル
・機能は初めから持たせずにそこに訪れる人々が必要なものをつけ足し、生活する。→個人の生活が、街の生活の広がりとなる。(自分達で居場所を見つけ、生きていく)
・裏側へ訪れ、そこでしか生きたくないと感じ裏側に住み続ける。
・裏側という場所を知り、表と裏を行き来して使い分ける。

(図1)イメージ(写真)



2003-2019, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2019-01-17更新