卒業研究要旨(2018年度)

集う・繋がる・育つ庭 〜演劇的教養を通して〜

2018年度卒業研究 空間デザイン研究室 溝渕 怜

1.はじめに

 演劇は私の人生観を大きく変えてくれた。教育者である石黒広昭氏は「演劇活動を通して、異なる価値観や文化の中で生きる他者を知ろうとすることで、自分を豊かにする多様性を学び、社会を生きる力がつく」と述べている。演劇には人の生活を豊かにし、社会をよりよくする力があると考える。かつて劇場は住宅のそばにあり、人々は仕事帰りに気軽に足を運び、観劇を楽しんでいた。しかし現在では大都市圏に劇場が作られたため、電車で長時間をかけなければ演劇を見られない。文化活動である演劇が観光文化となり、文化産業となってしまったのである。本来、劇場に市民の生活文化としての役割があったのならば、演劇は人の生活の身近にあってこそ、その存在意義を果たすのではないかと考える。そこで、演劇活動を人の生活のそばに感じることができる空間を提案する。

2.敷地概要

対象地:神奈川県厚木市 本厚木駅前商店街周辺
敷地面積:敷地A...約2,250m2
     敷地B...約2,600m2
     敷地C...約1,660m2
     敷地D...約1,680m2

 大型商業施設ができたことで多くの商店会が廃れていき、その跡地の多くにはマンションや駐車場、風俗店が建設されている。本厚木駅前は自由に使える空間や人との関わりが持てる場所が少ないと感じる。

3.設計コンセプト

 演劇活動を通して、人が集い、繋がり、育つ場所。主に演劇を見て、つくって、発表するという三段階で展開していき、この空間自体が演劇活動を通して色付けられていく「庭」のような場である。人がここを訪れ、様々な形で演劇に関わることで、新たな出会いや発見をし、成長していく。

4.シナリオ

 厚木市でアーティスト・イン・レジデンスを行う。厚木に地方から劇団員がやって来て、3〜6ヶ月間、ここに滞在する。その間、様々なイベントを開催するなどして市民との交流を図り、共に作品を制作していく。滞在期間の最後には演劇祭を盛大に開催する。

5.設計方法

(1)発表の場(ステージ)
(2)制作の場(スタジオ、工房など)
(3)その他施設(カフェ、託児所など)

 これらの要素を少しずつレベルを変えたデッキや橋で繋げる。デッキは、ある時には作品を披露する舞台となり、またある時には舞台セットの制作やワークショップを開催する場となる。時にはダンスや楽器の練習をしたり、机や椅子を置いて会話や食事を自由に楽しむ空間としても利用できる。一休みをするつもりでベンチや階段に座ると、あらゆる場所で同時多発的に披露される劇や、デッキにはみ出した創作活動が視界に入る。自分の興味の向いた方向へ敷地内を自由に歩き回りながら、気軽に演劇と関わって欲しい。

(図1)敷地地図
(図2)敷地模型



2003-2019, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2019-01-17更新