卒業研究要旨(2019年度)

縁側の魅力とこれからの姿

2019年度卒業研究 空間デザイン研究室 朝田皐月

1.はじめに

 かつての日本家屋には「縁側」という空間が存在した。そこは、庭へのアクセス、ストンと腰を降ろす場、近所の人と関わりを持つ場として使用されていた。しかし現代では縁側はまるで余剰空間とされ、敷地に余裕のないまちなかでは敬遠される。そうした中でも、建築家は様々にまちと住宅を繋ぐ試みを行っており、そこから「縁側空間」の新しい形を探していきたい。

2.調査方法

 ここで「縁側」とは、自分の居場所を保ちながら外を楽しむことができる場所、また、内と外に繋がりが存在し、まち全体に温もりが溢れ出す場所とする。「新建築住宅特集」2005年1月号〜2019年10月号まで15年分168冊に掲載された住宅から、「縁側」があると思われる221個の事例を抽出した。

3.結果・考察

 抽出した事例を、住宅内部と外部との関係性によって、従来の縁側に近いタイプを含め6種類に分類した(表1)。住宅の外に広がるまちに対して住宅内部からどのように認識がされるのか、まちの側から住宅の様子がどのように認識されるのか、双方向関わりの強さによってタイプ分けを行っている。

 タイプAは、従来の縁側に近い空間である。外部に対して開放的で、内と外との境界が曖昧であり、関わりが街に溢れ出す。タイプBは、縁側が屋外に張り出すもので、従来の縁側と似ているが、外部にあることでまちと人との距離感が近く、外部から直接アクセスできる。タイプCは、室内側の土間を通して外部と変わる。Bよりやや距離をとりつつ内と外が関わりを持ち、内部に人を引き込むこともある。タイプDは、内部を前面道路から少し引きを取るもので、内に居場所を確保しつつ、ガラスを介して内の気配が外に漏れ出し、コミュニケーションのきっかけにもなる。タイプEは、窓際に自分の居場所を設けて外に開き、高さ等によってまちから視線をずらす。外部からはその住宅は「まち」として捉えられる。タイプFは敷地の高低差を利用して、まちを風景として内に引き込む。内からも外からも、互いにまちの風景として楽しむような、間接的なコミュニケーションの場とも言える。

4.まとめ

 従来の縁側空間ではないが、現代の住宅にも敷地状況や周辺環境に応じて、さまざまなタイプの縁側的空間が存在することがわかった。縁側空間はまちと人と住宅に適度な距離感を持たせ、内と外の関わりを曖昧にさせることでまちに生活を溢れ出す。現代の住宅にも積極的に取り入れていくことで、住民同士に気遣いを超えた絆が生まれ、生活がまちに溢れ出すことで、まち全体も温まるのではないだろうか。

(表1)「縁側」のタイプ分け 矢印は視線を示し、存在が確認できるものを実線で、気配が確認できるものを破線で示す。
〈タイプA〉33事例:従来の縁側空間
 広い敷地を持ち、生垣や低い塀を超えて道行く人や、知人と関わりを持つ。外と内の出入りが可能である。
〈タイプB〉68事例:屋外の縁側的空間
 非日常を味わうことが出来る空間。街の休憩場となることができる。内と外の関わりがダイレクト。
〈タイプC〉13事例:対等な視線で関係の縁側的空間
 外を内に入れ込むことで、二つの関係性が対等にすることができる。外に閉じる・開くの調節が容易。
〈タイプD〉23事例:外と距離を持つ縁側的空間
 内と外に平面的な距離を取ることで、内は自分の居場所を確保しつつ、外には生活の世界が漏れ出す。
〈タイプE〉33事例:内が外に向かう縁側的空間
 住宅街に存在する家は街と立体的に距離を置きながら内の自分の居場所を確保する。
〈タイプF〉51事例:高低差縁側的空間
 敷地を利用し距離感を持たせる。内は街を、外は内から漏れるへ気配を風景として楽しむ。



2003-2020, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2020-01-23更新