卒業研究要旨(2019年度)

aspiring Artists 〜房総の廃校再生〜

2019年度卒業研究 空間デザイン研究室 田邊美波

1.はじめに

 私はよく美術館へ足を運ぶ。そこでは著名なアーティストが自分の作品に対する自信に満ち溢れ、それに対する想いや強い愛情がひしひしと伝わる。また、美術館はアーティストが創造している世界に自分を置き、自分には今まで考えたことのないような「新しい何か」を取り込んでいる気がする。そこで過ごす時間は心地よく、いつの間にかアーティストの感情の世界に入り込んでしまったりすることもある。その空間に滞在している時間は、日常から距離のあるような感覚に陥る。

 それでは、私たちがまだ知ることの出来ていない、今後私たちに影響を及ぼすであろうアーティストはどの様に自分を主張し、一人前になっていくのだろうか。彼らは日々自分と向き合い、一部の狭い空間で孤に制作をしている。彼らはどこで同じ目標を持った仲間と出会い、人脈を広げているのだろうか。自分を主張しつつ、制約のない空間で制作に打ち込める環境。そんなアーティストの居場所を提供し後押しすること。これらを私たちの生活に溶け込ませることができたのなら、これからの人生が大きく変化するきっかけになるかも知れない。

2.対象敷地

対象敷地1:千葉県館山市立旧神戸小学校
敷地面積:17,213m2(図1参照)
市街地から車で10分ほど。校舎の周辺は木々や田んぼなど緑豊か場所。地上2階建の鉄筋コンクリート造。こども園が敷地内で運営されている。

対象敷地2:千葉県館山市立旧富崎小学校
敷地面積:7,689m2(図2参照)
地上2階建の鉄筋コンクリート造。海の目の前に位置した学校。海抜13.9m。校舎の屋上からは太平洋が一望出来る。

3.設計コンセプト

 2校とも宿泊施設+アーティストインレジデンスとしてリノベーションする。距離が離れていることから、2校は繋げず各々で完結できる様に考える。制作風景を見てもらい、プロになる為のモチベーションを上げられる様な環境づくり。

○旧神戸小学校
制作物:インスタレーション(絵画・彫刻・映像・写真を利用した場所や空間全体を作品として体験させる演出)、共同制作、大規模制作物
・美術館の様な大規模な空間・こども園は残し子供たちも私生活からアートにふれ、幼い頃から豊かな心を育てる
・フリースペースで聞こえる会話やふとした時に生まれる会話が何かアイディアのきっかけになる様な環境

○旧富崎小学校
制作物:グラフィティー、個人制作
・景観の良さを生かし観光客目線のAIR
・地元を生かし富崎地区の人が運営する
・建物自体をリーガルウォール(ペイントして良い壁、場所)とする

→地元の人が見守っていると言うこともあり、治安は守られる

→建物や室内、街の風景を変えるだけではなく、“新たな分野に挑戦する若者の支援”となることを目指す近隣住民との関係をつくる機会を設け、田舎のこの地域から徐々にグラフィティーを浸透させられることを期待する

4.制作イメージ

○神戸小学校
 広い土地を生かした作品作りのできる環境。グラウンドを最大限に活用し、10m以上にもなるRC造の存在感のある施設とし、地域のシンボルになる事を望む。大規模展示空間が個々に存在し、その間の導線を長くする。その作品を見た人が自分の中に落とし込む時間を生み出す。敷地内にアクセスしやすいように塀は一切無くす。

○富崎小学校
 現存の校舎が個性的な為、あえて崩したり大幅に付け足したりはしない。校舎には10mほどのデッキを繋げる。そこから眼下に広がる太平洋、校舎側には校舎の外壁に表現されたグラフィティーを眺めることができる。

(図1)旧神戸小学校イメージ模型
(図2)旧富崎小学校イメージ模型



2003-2020, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2020-01-23更新