卒業研究要旨(2019年度)

あるく 〜徘徊を散歩へ〜

2019年度卒業研究 空間デザイン研究室 内田有香

1.はじめに

 「徘徊」という言葉にはどうしてもマイナスなイメージがある。「徘徊」という言葉の意味は「目的もなくうろうろと歩き回る」である。しかし、認知症の方は目的がないまま徘徊しているわけではない。買い物に行きたくて、自分の居場所を探して、家に帰りたくて、といった目的を持って動き始めている。目的があるなら「徘徊」とは言わないのではないだろうか。

 「散歩」という言葉の意味は「気晴らしや健康のため(目的)にぶらぶらと歩くこと」である。暮らし慣れた街の環境によって、認知症の方の「徘徊」という行為が「散歩」という行為に置き換えられないか、これによって「徘徊」のマイナスなイメージを少しでも払拭できるのではないかと考えた。

2.対象敷地

 ここは山梨市と甲州市をつなぐ昔のメイン通り。かつてはいくつもの商店が建ち並んでおり、街の商工青年部の方々が協力してお祭りやイベントを開催するなどとても賑わっていた。しかし、不景気や高齢化などによりほとんどの商店は閉店となり、イベントも10年ほどで開催されなくなってしまった。商店の閉店や老朽化は街の雰囲気も暗くしている。使われていない商店が道に面しており使われている住宅はその奥にあるため、道を歩いていても生活の気配を感じにくい。

3.設計コンセプト

街の中で感じる生活

 住む人全員が街の中で生活(食事・洗濯・勉強・趣味など)をすることで必ず誰かと出会う。「誰かと何かをする」事でコミュケーションや関わりが生まれ、相手の事を認識することができる。街で生活をしているもしくはどこかに向っている途中、認知症の人が散歩をしていたら気づき声をかけることができる。これにより、「徘徊」ではなく「散歩」になる。

 認知症の人は周りの環境が変わると「ここは自分の場所ではない」と感じ、これが徘徊につながる。もとからこの場所にあった建物や山梨特有のものを活かしながら生活の機能を街にはみ出させることで人の足を止めるきっかけをつくる。

4.制作イメージ

i)空き地を広場として改修し、生活の機能を取り入れる。普段は室内で行っている、人が集まる会合や無尽など室内でなくてもできることが、できる場にすることで外に人の目が増える。また大通りを歩きながら、もっと街の中に入り込みたいと思えるようなランドスケープのデザインを行う。住宅と住宅の間の、普段だったら歩かないような場所に歩きたいと感じる道を設けることで、新たな発見や関わりが生まれる。

ii)既存の建物の中で空き家や空き店になっているものに生活の機能を取り入れる。このとき、街の雰囲気を大きく変えないために既存建物のデザインや配色などを残しながら改修する。しかし、外に人の気配が伝わらなければ生活がはみ出しているとは言いにくい。そのため、開口部はなるべく大きくとり人の動きが見えるように、さらに外と中で関わりが生まれるようにする。

iii)軽トラックを利用した屋台を取り入れ、空き地のうちいくつかを屋台が止められる場所(屋台停)に改修する。また、買い物をするだけでなく買ったものをその場で調理したり食事をしたりする場所も設ける。自分の家でつくった野菜や果物、お惣菜などを軽トラックに詰んで移動しながら販売することで、足が悪い方も少しの距離で買い物に行くことができる。加えて、屋台に人を乗せる機能をつけることで、屋台と共に街を回遊することができる。

(図1)対象敷地:山梨県山梨市小原西地区 山梨県道205号三日市場南線
(図2)イメージ写真



2003-2020, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2020-01-23更新