卒業研究要旨(2020年度)

曖昧にとける

2020年度卒業研究 空間デザイン研究室 石田香穗

1.はじめに

分譲住宅地に魅力を感じない。「調和のとれたバランスのいい環境」をねらっている住宅の外観や、単一化された間取りのプランが嫌いだ。ただ似たような住宅が並んでいるだけでは、何もコミュニケーションは促されず、自宅以外に自分の居場所が生まれるわけでもない。単一化された間取りでは、次々に現れる個々の多様な生活に対して妥当とは言えない。また、分譲地の配置計画にも問題がある。住宅同士の距離や向き、公園や公道は、ただ配置・設置しているだけであり、住民や周辺環境との繋がりを考えていない。このような、臨家や地域に対して閉鎖的であり、暮らしの在り方を誘導するような分譲住宅地に問題を感じる。
以上のような考えから、新たな分譲住宅地の在り方を提案したい。

2.対象敷地

東京都青梅市にある自身の住んでいる分譲住宅地
竣工開始:2001年
面積:5041.00㎡
棟数:24棟
西は公道を挟んで森であり、その他は昔ながらの住宅が建ち並んだ住宅街。

3.設計コンセプト

「私有の共有」
それぞれの私有地の一部を住民全体と共有することで、共用空間では起きない自由な変化を生み出す。これにより、分譲地全体が居住者の行為にあふれる。私有が曖昧となった空間によって、様々な境界の輪郭が溶け、定型化された従来の分譲住宅地の在り方から解ける。

4.制作イメージ

i)敷地を囲う柵を取り払い、境界を視覚的に曖昧にすることで、居住者の生活行為を開放する。行為が自宅外へと広がることで居住者同士の交流の機会を生む。

ii)宅地割を複雑にし、それぞれの住宅の角度を変えて配置することで、視点が移動したときに展開される空間の表情を豊かにする。また、臨家との間の空間に強弱をつけることで、住宅地の中に様々な場が生まれる。これによって、自分の居場所を自宅外に見つけ出し、住宅地全体が自分の家のように振舞える。また、この配置によって、住宅にオモテの顔とウラの顔が生まれる。オモテの顔を共有することで住人の暮らしが見え、ウラの顔で住人がそっとくつろぐ。人が集まって住むことで生まれる異なる表情が、新たな分譲住宅としての顔を作っていく。

iii)住宅の間取りは、機能ではっきりと居室を分けるのではなく、間仕切り壁や段差によって空間を緩やかに繋げ、曖昧な空間とする。これによって、暮らしの在り方をはじめから決められた形にするのではなく、居住者自身が考え、自分の暮らしにあった空間を生み出す。また、外に大きく開いた空間を設けることで、住民と共有できる空間を住宅内部にも拡大し、空間の使われ方の可能性を広げ、住み替えによる空き部屋をつくらない。

(図1)対象敷地図
(図2)イメージ写真



2003-2021, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-01-23更新