卒業研究要旨(2020年度)

オンラインで変わる住まいのかたち

2020年度卒業研究 空間デザイン研究室 皆川桃子

1.背景・目的

 2020年に流行した新型コロナウイルス感染症の拡大は、日常生活に大きな影響を与えている。特に前期は全国的にステイホームが強く要請され、オンライン授業やテレワークが普及し、家での過ごし方や部屋の使われ方、家族との関係などさまざまな変化をもたらしている。本研究は、そのような住まいの変化を明らかにすることを目的とする。

2.研究方法

 生活環境学科1~4年生を対象に、ステイホーム期間(2020年前期)とそれ以前(2019年前期)の生活の様子や意識の変化について、アンケート及び図面による調査を行った(図1)。50人分を対象とした。

3.結果と考察

 オンライン授業/仕事は、1強制的かつ一方的で2空間的・時間的拘束性が強く3家族との共用が難しいという特徴がある。現代住宅の多くは、個人の私領域と公領域からなる公私分離型のプランだが、そこに異質な要素が入ることで、使われ方にさまざまな変化が生じていた(表1)。

(1)公私領域の維持
個人の部屋が確保されていたり、空き部屋を活用することでオンライン同士のバッティングを避けるようにする。家族の公領域は維持され、家族のコミュニケーションも維持/増幅される。

(2)公私の断絶
私領域におけるオンラインの要素が過剰となり、生活が私領域に限定され結果的に公領域との間に断絶が生じ、家族との交流が減少する。

(3)私領域の喪失
きょうだいで共有する私領域で一人がオンライン対応で部屋を独占したり、オンライン対応のため他者が私領域に進入し、私領域を失ったり希薄化する。

(4)公領域の喪失
リビング空間を一人がオンライン対応で独占することで、その空間が私領域化され、家族の公領域が喪失する。結果的に生活が私領域に限定されたり、私領域・公領域とも確保できず、安定した居場所を失う人が発生する場合もある。

(5)新たな共存のかたち
リビングにオンラインが入ってきても、他の家族を排除せず、家族の公領域としての役割が維持される。あるいは、私領域が他者に開放され、個人に専有されてきた領域が新たな共領域へと変化する。

4.まとめ

 オンライン授業/仕事の住宅への進入により、公私領域の関係が維持される一方で、従来の公私領域の意味が揺らぎ、住宅プランとの齟齬が生じている。そんな中、公領域、私領域それぞれに見いだされた共存のかたちは、これからの住まいの考え方に示唆を与えるのではないか。

(図1)「2019年前期」と「2020年前期」の様子

(表1)生活変化のパターン
 <私領域の変化> 家の中の自分の生活領域が変化している。領域拡大、自室(個室)ではあまり過ごさない、自室(個室)にこもる、など。
 <共存> 家族が居場所としているリビングに授業や仕事が入り込んできたが、共存しながら過ごしている。
 <居場所の変化> 授業や仕事がリビングの中に入ってきたことにより、リビングを居場所としていた家族の居場所が変化している。
 <空いている部屋の活用> 普段の生活ではあまり使われていない和室などで仕事をする。仕事部屋へと空間の機能が変化している。
 <それぞれ個室> 授業や仕事をそれぞれ別の部屋で行う。追い出されるなどの家族の居場所の変化は起きていない。



2003-2021, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-01-23更新