卒業研究要旨(2020年度)

逃げの集落

2020年度卒業研究 空間デザイン研究室 恩田桃子

1.はじめに

 厚生労働省が実施した令和元年人口動態調査によると、15〜39歳の死因で一番多いのは自殺である。更に10〜14歳や40〜49歳ではがんに続いて二番目、50〜54歳では三番目と、日本は若者や現役世代の自殺が多い国と言える。
 自殺の原因は学校や職場、家庭での問題、健康や経済的な問題など様々存在するが、当事者が共通して抱えているのは「生きづらさ」ではないだろうか。そこで、置かれた環境での生きづらさを感じたとき、精神的かつ物理的な「逃げ場」が必要なのではないかと考えた。同じ状況にある人と出会い、生きづらさを抱えるのは自分だけじゃないということに気付ける場を提供したい。また、日本では、逃げることや休むことに対してネガティブなイメージが定着しているように思う。逃げた先の居場所、逃げを肯定できる場所を提案する。

2.対象敷地

対象敷地:群馬県佐波郡玉村町福島325(現・玉村町文化センター)
敷地面積:約23,408m2(南北に115.2m、東西に203.2m程度)

 県南部に位置する、平坦な地域である。付近には小学校や商業施設、新しい住宅街が並ぶ。北側には高架のバイパス道路が通っており、そのさらに北側には田園風景が広がる。公共交通機関はほとんど機能しておらず、地元の住民は自家用車を使って移動している。

3.設計コンセプト

『同じ方向を向く人と一緒に歩く』
 考え方の違う人と無理に歩調を合わせようとする必要があるのだろうか。同じ方向を向く人と共に、今とこれからを考えてゆく。

4.計画

 集落に逃げてきたら、まず同じ方向を向く人を探す。既に住んでいる人たちの中から考え方や気の合う人を見つけ、この集落での「家族」を形成する。そして、その家族のエリアに個人の家を持つ。住み込んで居住拠点にするもよし、昼間だけ通って活動拠点にするもよし。個人の「逃げ方」に合わせ、利用スタイルは委ねられる。
 2種類のエリアに3種類の居場所を設ける。5人の家族が5つで、最大25人の集落を形成する。

4-1.2種類のエリア

i)家族のエリア
 住人は集落内での家族を形成し、共に生活する。家族と過ごす。個人と過ごす。自分自身と向き合う。

ii)集落のエリア
 家族を越えて、集落の住人が混ざり合って過ごす。人との関わりを持つ。

4-2.3種類の居場所

i)個人の家
勉強・仕事、こもる、暮らす

ii)ここだけの家族空間
集まる、話す、食べる、遊ぶ

iii)集落
出会う、話す、遊ぶ、運動、働く、散歩

(図1)敷地周辺図
(図2)配置・動線イメージ



2003-2021, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-01-23更新