卒業研究要旨(2020年度)

ひとり行動 〜ひとり利用しやすい環境とは〜

2020年度卒業研究 空間デザイン研究室 清水翔香

1.はじめに

 近年、ひとり利用を対象とした店が増えてきている。しかし、女性がひとりで利用しにくいと感じることも多い。この研究では、「ひとり行動」に注目し、ひとり行動をできる人とできない人の違いに目を向けながら、ひとり行動したくてもできない人でも利用しやすい店舗のあり方について考察する。

2.研究概要

 2020年7月~10月に、現地調査として、郊外/都心部の店舗24カ所を実際に利用し、店の入りやすさ、居やすさを評価した。11月末に、実践生1~4年を対象に、ひとり行動の意識に関するアンケートを行った(回答数178)。

3.アンケート結果

3-1.ひとり行動に対する意識

 どちらかといえばひとり行動する人は約半数。ひとり行動のイメージは、自由・自立など、全体的にポジティブに捉えられているが、ひとりでは心細いなどの理由で行きたいけど行けないという層が一定程度存在する。そこで、ひとり行動に対して積極的なA群から消極的なC群まで、3群に分けて比較した。

3-2.訪れやすい/訪れにくい場所

 どの群でも行きやすい場所は、チェーンのカフェ、ファーストフード、日常の個人商店など。一方どの群も行きづらい場所は、焼肉やテーマパークなどグループを前提とする場所、および高級品を扱う店であった。A群とC群で差が大きかったものは、男性客向け(ラーメン、牛丼等)、ファミリー向け(ファミレス等)、店員とのコミュニケーションを伴うもの(こだわりの強い店、眼鏡屋等)となった。

3-3.入りにくさ/入りやすさの要因

 特に消極的なC群にとって、入りにくい要因として挙げられたのは、店の客層が偏っていること(金持ちのみ、男性のみ、グループのみ)、外から中の情報を得にくいこと。一方入りやすい要因としては、ひとりの利用者がいることが分かる、ひとり用の座席が用意されているなど、ひとり客が受け入れられていることが分かること、および、店員が話しかけてこない、タッチパネルの利用など、店員との接触を避けられることが多く挙げられた。

4.現地調査結果

 際にひとりで体験して、入りやすいと評価した店の特徴は、多くが上記アンケート結果と合致するものであった。ただし、アンケートではあまり高評価でなかった「店員が気さくに話しかけてくれる」などの店員の態度は、利用する場合には居心地の良さに大きく影響していた。外から感じられる店への入りやすさと、実際に中で体験される居やすさは、必ずしも合致していないことが示唆された。

5.まとめ

 男性客向け、グループ客向けなどのイメージが強い場所は、女性ひとりで入れる人/入れない人に大きく差が見られ、こうした店がより入りやすくなることで、ひとり行動を促す上で有効と考えられる。ひとりの利用が受け入れられることが外から分かり、店員との非接触性を保つこと、男性向けのイメージを変えるような内装・外装とする、などの方法が示唆される。ただし、店内の居やすさについては、必ずしも非接触性に依らないことも見出された。

(図1)ひとり利用できる飲食店 (N=178)(グラフ)



2003-2021, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-01-23更新