卒業研究要旨(2020年度)

カフェ空間からみる居方の研究

2020年度卒業研究 空間デザイン研究室 竹花步香

1.はじめに

 カフェ空間は、人が居る・居座ることを重視した空間であるが、実際の居心地の良し悪しは場所によって異なる。空間や家具などの物理的要素だけではなく、そこにいる他者の存在も大きく影響すると考えられる。そこで本研究では、カフェ空間の「居方」という視点から居心地の良さを考察する。居方とは、実際にその場で体験される、周りの様子を含めた居場所の質を表す概念である。

2.調査方法

 商店建築等の雑誌から長居ができそうなカフェを40件抽出した。実際に1人で滞在し、空間・人・居心地などを記録した。室内の特徴・他者の過ごし方・居座って感じたことの3つの図面を作成し、分析を行った。

3.居心地に関わる要素

 視覚的な開放性と、そこに居るときの人間関係の開放性の2軸をとり、それぞれのカフェをプロットして、店への入りやすさと居心地の良さとの関係をみた(図1)。居心地の良さは、人間関係の開放性と関連するが、入りやすさは特に関連性はみられなかった。次に、作成した図面からそれぞれのカフェの居心地に関わる要素として表1に示す項目が抽出された。居方は、これらの要素が複合されたものといえる。

4.居心地がもたらす居方

 実際に空間に滞在して、居心地が良いと感じる居方のパターンを抽出した(表2)。いずれも1人で居てもその場の他者との適度な繋がりを持つものであり、それが人間関係の開放性をもたらし、居心地の良さに結びついていると思われる。こうした居方は他者にも伝播することがあり、居合わせた人同士で互いに調整し合いながら、安定した居方を選択しているといえる。

5.まとめ

 カフェ空間の居心地は、物理的要素だけでは成り立たず、そこにいる他者の存在が最も重要である。他者の居方を見た人がその空間になじみ、その人もまた新たな居方をとる。そのような間接的な繋がりが起こることでカフェ空間の質が上がるのではないだろうか。

(図1)居心地の分類

(表1)居心地に繋がる要素
 距離感:程よい距離感が居心地に繋がる。数値的な問題ではなく、席の向き、隣の人との関係、カフェ全体の雰囲気で変わってくる。
 視線の向き:他者との視線の向き合い方。
 外の景色:高さ、照明、席の向きで外に居る人やモノとの関係が変わり、居心地に影響する。
 スタッフとの関係:他人と自分の間にスタッフがいる関係性。居やすい雰囲気が創り出されているか。
 モノや音との関係:置いてあるモノが人や空間との関係をつないでいるか。音の重要性。
 他人との関係:居る人の特徴、過ごし方で大きく居心地に関わってくる。

(表2)居方のパターン
 視線で繋がる:四角のテーブルを緩く囲うように作業をする。他者を感じながら自分の作業に集中ができる。
 音で繋がる:背後に人の会話が聞こえる。適度な雑音は心地よい。同じ空間を共有している。
 モノを介して繋がる:本をテーマにしたカフェ。席は遠くても目の前の人が同じように本を手に取っている。
 人を介して繋がる:本屋内にあるカフェ。本屋側に行くとき、スタッフが挨拶してくれる。それを共有する空間
 居方の連鎖:カフェの中央にある対面席。同じ席でも始めに居た人の向きで席の座る向きが自然と決められる。



2003-2021, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-01-23更新