卒業研究要旨(2021年度)

地域×医療「暮らしの保健室」からみる高齢者の居場所

2021年度卒業研究 空間デザイン研究室 服部朱音

1.はじめに

 埼玉県幸手市では、住民主体の地域活動を医療が支援する地域包括ケアの仕組み「幸手モデル」に取り組んでいる。本研究では、その取り組みの一つ「暮らしの保健室」を対象に、医療・福祉の側面から地域の居場所づくりに関わる意味や可能性について考察する。

2.調査概要

「暮らしの保健室」は、地域ケア拠点“菜のはな”が、地域住民(コミュニティデザイナー)の運営する地域サロンに医療従事者を派遣する事業である。(図1)9カ所のサロンを対象に、表1の調査を実施した。

3.サロンの特徴

『対象とした各サロンの概要を表2に示す。サロンごとに、運営、内容、雰囲気に個性が見られ、参加の仕方にも多様性が観察された。

4.参加者にとっての「暮らしの保健室」

参加者へのヒアリング結果から、地域における「暮らしの保健室」の意味・役割が見出された。

4-1コミュニケーションの場の創出

 「コミュニティデザイナーによる関係構築」+「時間や空間を共有する場の設置」+「専門家による講話や相談の機会」これらが関わることで創出される。

4-2居場所としての多様性

・参加目的の多様さ
 医療・福祉の情報に触れる目的/集まるための手段/別の目的のついで

・常設/一時的 それぞれの価値
 常設的な場所→いつでも行けるという「安心感」
 一時的な場所→その時しか行けない「価値ある時間」

4-3医療・福祉との接点

・医療と地域の橋渡し
参加者は暮らしの保健室を通して医療・福祉と接点をもち、コミュニティナースと関わることにより、病院へ行くことや相談することのハードルが下がる。

・フラットな関係構築
サロン運営者・参加者が同じ「地域住民」というフラットな関係で関わっている。そこに暮らしの保健室が関わることで、その場所では医療と地域のフラットな関係がつくられる。

5.まとめ

 「暮らしの保健室」は、地域の居場所として住民にコミュニケーションの場を創出し、多様な参加の仕方を促しながら、住民と医療・福祉との新しい関係性を地域にもたらす仕掛けである。純粋な居場所としてのコミュニティサロンと、専門的な医療機関との双方の機能を担いながら、その間を補完している。

(図1)暮らしの保健室の仕組み
(表1)調査方法
調査対象:埼玉県東埼玉総合病院菜のはな 幸手市・杉戸町に点在するサロン9カ所
観察調査:2021年10月〜12月
ヒアリング調査:6月〜12月/8か所/各2〜5名 計35名(参加者26名、運営者6名、医療関係者3名)
Facebook調査:2017年〜2021年(5年間分)

(表2)各サロンの暮らしの保健室
・白石工務店:
 工務店の社員の方が進行役となり、真剣な雰囲気の中行う。体操をすることもある。(4〜6名)
・ぽっぽハウス:
 ナースを囲んで話をする。講話のテーマに沿った話や、雑談、愚痴など盛り上がりのある雰囲気で行う。一人の相談に対して参加者全員で話し合う場面もあった。(6〜10名)
・グリーンカフェ:
 おしゃべりがメイン。講話とは別にスタッフがテーマを決め、一人ずつ順に話をしたり、全体で話をしたりする。以前は季節の行事や演奏会などを行っていた。ナースもイベントに参加。(7〜10名二部制)
・木ごころ:
 リビングで落ち着きのある雰囲気の中行う。テーマに沿った話や雑談など幅広い話をする。少人数だが質問が飛び交う。子どもから大人まで参加する地域イベントに菜のはなも参加。(3〜6名)
・フレッシュタウン:
 好きなタイミングで質問や相談をする。隣同士の席で話たり、一人の相談を聞き参加者全員とナースで話し合ったりする。(5〜7名)
・ぷリズム:カフェでお茶をするようなスタイルで相談や雑談をする。カフェやカフェ目の前の団地広場を利用した企画にも暮らしの保健室が参加。(5〜7名)
・森の集い:
 講話後は運動や発声練習などを行う。ナースも活動に参加し、共に身体を動かす。参加者は運動中や休憩中にナースに相談をする。(15〜20名)
・らくらく会:
 講話中も質問が飛び交う。講話後は参加者とナースがコミュニケーションを取りながら体操やストレッチなど行う。(7〜10名)



2003-2022, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-02-09更新