卒業研究要旨(2021年度)

アイノマチ 〜分かち合い、分かり合う〜

2021年度卒業研究 空間デザイン研究室 森下綾音

1.はじめに

 近年イスラム教との人口増加率は、世界人口を上回るペースで増加しており、2017年では世界人口の4人に1人はイスラム教徒である。日本ではイスラム教徒についてあまり馴染みがない。

 
私は3年間海外で暮らしており帰国してきた際に、イスラム教徒だけでなく、日本では異文化という面において壁があると感じた。世界の宗教人口に変化が生まれていく中で、彼らや異なる生活習慣をもつ人々とより関わる機会が増えていくため「、異文化」を「日常」として受け入れていく必要があると考えた。

 今回、私は異文化を取り入れた観光地ではなく、日常生活の中に異文化の要素を折り込み、現在の「非日常的な文化」を「日常生活」として受け入れて共存できるまちづくりを提案したい。このまちで「出会い」、共に過ごす場所、時を「分かち合い」、そして「分かり合う」ことで生まれる多様な価値観。ここで暮らす人が、地域内外問わず、様々な場面でこの考えを伝播させることを期待する。

2.対象敷地

対象敷地:モトスミ・ブレーメン通り商店街 
敷地面積:約4969,35㎡

 神奈川県川崎市の元住吉駅を最寄り駅とする商店街。近年は個人店の減少からコミュニケーションの場が減り、意図遂行型の商店街になりつつあると考えた。

 近隣には国際交流センターという、地域社会における国際文化の定着と交流を目的とした施設もある。

3.設計コンセプト

『分かち合い、分かり合う』

 イスラム文化の中で尊重されている「分かち合い」の考えを取り入れ、場、時間、出来事を様々な距離感を持って「分かち合う」。

イスラム文化をはじめとした異文化「非日常」を、モトスミブレーメン通り商店街という既に「日常」が確立しているまちに織り込み設計することで、互いの文化をより「分かり合う」ことを目的とする。意識的にも無意識的にも、関わりあうことで日常に取り込まれていく。

4.制作イメージ

i)商店街の一部分に風穴をあけ、裏側の敷地に新たな街を展開していく。新たに形成されたまちは入り組んだ道により、人との出会いを生む。そしてその道の先には、静かな中庭や賑やかな中庭など小さな中庭を転々とさせることで人々の留まる場所を作る。
 中庭はイスラム建築において重要視されており、人々に安らぎを与える憩いの場となっている。そのため境界線として、時に人々をつなげる役割として配置する。私たちにとっての非日常的空間と日常的空間を中庭を介することで距離感にグラデーションをもたらす。

ii)建物の高さは2階、3階程度のものにする。周辺にある既存の建物から解離しすぎないこと、また建物間のつながり、外部空間における隙間や施設の展開が目的だ。1階は全体に開いたオープンな空間に、2階や3階、上の階に上がるにつれてクローズドで明確な目的のある施設を展開していく。
 しかしそれらをつなぐテラスや外部空間はコミュニティの場として形成されるため、入り組んだ場においても同じ時を「分かち合う」。 中庭と階層ごとによる静かさと賑やかさのグラデーションや、目的、距離感を意識し「非日常の壁を溶かし、「日常」として溶かしていく。

 日々の生活の中で寄り添い、同じ場で時間を共有することで異文化という非日常も日常に変わっていくだろう。そしてそういった考えを持つ人々が住まうまちだからこそ新たな価値観を認めることができるのではないかと考えた。コミュニティの活性化により地域社会全体がより豊かになり、現在のモトスミブレーメン通り商店街周辺に住む人々にもより良い影響が与えられる。このまちに住む人々が「分かち合い、分かり合う」価値観を持ち込み、様々な場で新しい風が取り込まれることを願う。

(図1)敷地図
(図2)模型写真



2003-2022, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-02-09更新