卒業研究要旨(2021年度)

ポジティブモータウン〜「車社会」の新しいコミュニケーションのかたち〜

2021年度卒業研究 空間デザイン研究室 槍崎 幸

1.はじめに

 「車社会」、この言葉に大抵の人はネガティブなイメージを持つ。車による環境問題や高齢者の交通事故などは、各車メーカーの技術向上により解決へ近づいているように感じる。しかし、点と点を容易に繋ぐことができる車という箱が、人々の交流減少や、中心市街地衰退を引き起こしていることに対して、未だ大きな解決策は見つかっていない。今回は、私の地元の水戸市を「車社会」である地方都市の一例として挙げる。問題の原因である車を排除するのではなく、上手く利用したまちを提案したい。

 「車社会」を地方都市の一つの特徴的な文化としてポジティブに捉え、この施設をきっかけに、水戸市の中心市街地が前向きな車社会「ポジティブモータウン」として発展していくことを目指す。

2.敷地概要

対象地:茨城県水戸市大町2丁目の一角敷地面積:約29,010㎡
 この敷地は、関東平野のなだらかな地形で、水戸駅からは徒歩10分程度、国道50号を通るバスでもアクセスが可能である。敷地のすぐ後ろの水戸第二高校をはじめ、周辺には多くの高校が存在する。近くには警察署や裁判所、銀行の本店など市や県の中枢を担う機関が多くある。この敷地は、衰退した水戸市の中心市街地の中でも特に駐車場の割合が高い区画で、周辺にも多くの駐車場や空き地、空き店舗が存在する。

3.設計コンセプト

「車の可能性を広げ、人々の交流を生み出す」
 密接に交流したいと考えた時、車一台に乗れる程度の人数と距離感が最適ではないかと考える。そこで、移動するプライベート空間と化している現状の車に、様々な家具やインテリア、趣味のものなどを魅力的にカスタムし、その車に人を招くことで、近い嗜好を持つ人と人との交流を促す。

4.計画

 この施設の核となるカスタムエリアは、バンライフビルダーなどともに計画を練って、カスタムを実現させていく場所である。その内容は、車の持ち主の趣味嗜好に合わせながら、外に開くよう設計される。そのようにカスタムされた車たちは、オープンエリアに並ぶ。
 開く場所は車内だけでなく、少しはみ出しても余裕があるスペースを確保し、偶然通りかかった人や車の注意を惹きつける。また、内容によって、賑やかオープンエリアと静やかオープンエリアに分け、それぞれが過ごしやすいようにする。
 地域の高校生とは、手作業の洗車によって交流を持たせる。彼らが使えるフリースペースと同じ建物に洗車できる空間を作り、アルバイトをしながら将来の自分の車について想像させる。
 これらの建物と建物を繋ぐ道路の途中には、施設の様子を見たり開かれた車を利用したりする際に、自分の車を停める場所も作る。ただ停まっているだけのその車も、施設の一部として溶け込むよう、ショーウィンドウのような仕掛けを取り入れ、殺風景になりがちな駐車場の景色をより良いものにする。

 最終的にはこの施設を中心として、人と人との距離を遠くしてしまっている車が人々の交流を生み出す空間としてポジティブに存在することで、水戸市の中心市街地や他の地方都市が車を通して活性化していくことを期待する。

(図1)対象敷地
(図2)は一イメージ(カスタムエリア)



2003-2022, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-02-09更新