卒業研究要旨(2022年度)

シングルマザーの居場所

2022年度卒業研究 空間デザイン研究室 黒田千夏

1.背景・目的

近年、ひとり親世帯が増えてきている。とくにシングルマザーは、住居確保、職確保、貧困、ネグレクトなどの様々な問題に直面しやすいことが指摘されている。本研究では、そのようなシングルマザーの置かれている状況の中で「社会的居場所」の重要性に着目し、その必要性や意味を分析するとともに、シングルマザー専用のシェアハウスの役割について考察する。

2.研究方法

(1)シングルマザーの様子が描かれているドラマを対象に、社会的居場所のありようを分析した。対象ドラマは「ファーストペンギン」「woman」「#家族募集します」「健康で文化的な最低限度の暮らし」「マザーゲーム」「mother」「ハル~総合商社の女~」の7本である。
(2)40~50代のシングルマザー4人を対象に、当時の状況や苦労した点などについてヒアリングを行った。
(3)シングルマザー専用のシェアハウスを対象に1ヵ所(ideau)の運営者に対するヒアリング、および1ヵ所(MANAHOUSE上用賀)を訪問調査した(表1)。

3.ドラマにみる社会的居場所

7つのドラマから、シングルマザーにとって社会的居場所と感じられる場所を抽出した。そこから「人に頼ることができる場」「弱みを見せられる場」「自分の役割を実感できる場」「人から頼られる場」に分類することができた(表2)。社会的居場所は、社会快適な自分が確認できることとともに、個人としての自分が確認できること、の両方の重要性を持つと思われる。このような居場所があることで、心理的にも社会的にも安定した生活へと繋がることが窺える。

4.シングルマザーに必要な居場所

まずは、金銭面、住居面、時間的な面に対する切実な苦労が語られた。その上で、心理的には、頼れる場所/人、頼られる場所/人、弱みを見せられる場所/人、などの重要性が指摘された。そのような社会的居場所があることで、心にゆとりが生まれ、つらい時期を乗り切れるのではないか。

5.シングルマザーシェアハウスの役割

シェアハウスは、社会に向けてシングルマザーが自立するための最低限の環境を提供することを目指している。その上で、母親が日常的にコミュニケーションをとっており、休日に娯楽を楽しんだり、互いに頼り合ったり、弱みを見せられる場所になっていることが、運営者の話や現場の様子から窺えた。このように心理的に支えられる場所になっているからこそ、落ち着いたところで新たなパートナーを見つけ、シェアハウスから卒業する人が多いと思われる。

6.まとめ

シングルマザーにとっての社会的居場所は、社会的に認められる自分の確認と、自分らしくいられる個人としての自分の確認ができる場といえる。社会の中で社会的弱者の立場に置かれやすいシングルマザーにとって、このような居場所の存在によって、自分に対する肯定感を上げ、社会や環境に対する安心感を得ることが、次の成長へとつながることができる。 シングルマザー向けのシェアハウスは、安心できる基盤としての居住環境に加え、社会的居場所としての役割を果たしていると考える。

(表1)シェアハウス概要
Ideu:
 所在地:大阪府大阪市
 世帯数:3/4世帯
 賃料:7万円+共益費1万円
 特徴:長屋の一角、各部屋水回り完備、実就業の方ははじめの2ヶ月賃料半額、職業紹介
MANAHOUSE上用賀:
 所在地:東京都世田谷区
 世帯数:3/7世帯
 賃料:7万円+共益費4.5万円
 特徴:平日夜ご飯提供、夜20時まで子供見守り、退去後もご飯を食べに通うことが可能

(表2)ドラマからみるシングルマザーの居場所分類



2003-2023, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2023-02-10更新