卒業研究要旨(2022年度)

街に暮らす 〜公私混道が生み出す暮らしのかたち〜

2022年度卒業研究 空間デザイン研究室 中嶋晴菜

1.はじめに

私たちの暮らしは、完全にプライベートな住宅の中で完結していて他を寄せ付けない。それに対し商業施設は、他が集まるための場である。街を歩く中でも、出歩く人が少ない、家の中に人がいるはずなのにそれが感じられない、お店の利用者が少ないことを感じる。 商店街が衰退する中で、商業施設の間に住宅が侵食すると、対極にあるこの2つが衝突を起こし、これが結果として道を歩いていても寂しさを感じる・疎外感を感じることにつながっているのではないかと考えた。

2.敷地概要

埼玉県東松山市材木町の一番街の一角東松山駅からは徒歩9分と少し遠く、南側にはデパートがあり、市役所や保健センターから徒歩3分、小学校、中学校、幼稚園が近辺にあり、通学・通勤時は駅や学校に向かう人々が多い。大通りを挟み反対方向に続く松葉町商店街とともに昭和中期から賑わいを見せたが、駅近辺や幹線道路沿いの活発化により現在は多くが空き店舗もしくは駐車場や住宅となっていて、この場所を目的としてここに来ている人は少ない。

3.設計コンセプト

「公私混道が生む新たな暮らし」 公私混道とは、道(公)と住居(私)が少しずつ混ざり合った道の事である。これが街に広がり、住居・道・店など様々が混ざり合うことで、誰もが街に出て日常を過ごし、他人との交流が生まれ、補い合い・助け合いが自然に起こる。そんな街を提案したい。

4.設計概要

①空き店舗の活用
角地には休憩所兼案内所、また通り沿いに大きなシェアキッチン兼地域食堂。裏道の倉庫にはリハビリセンター兼スポーツジムやコインランドリーなどを設ける

②既存店舗の活用
洋服屋では裁縫教室、人形屋では絵付け体験などその店舗の特性を活用し、人の居場所とする

③空き地・駐車場の活用
住居の他に互いに干渉しあうことを促すため、シェアキッチンやシェアウィンドウ、道具倉庫ガレージやくつろぎ処、古本図書館など様々な機能を設ける。

5.設計手法

住居、道、店、庭、公園どんな場所においても他の要素を含ませるもしくは許容する余白を設ける。
道→日中は車の通行を禁止し、店舗や住居の共用部が広がっていくことを促す。庭→縁側やベンチ、植栽を積極的に設け道の各所で公園のように過ごせるようにする
店→既存店舗を居場所とするために体験教室を開催するほかに、物を共有するためのシェアクローゼットや道具倉庫・古本図書館を設け、物においても公私混同させ人の交流・許容範囲の拡大を促す
住居→寝室となる個室以外は共用とし、住人はシェアキッチンや銭湯・コインランドリーを日常的に利用する。様々な規模で各所に設け、外部の流入に自然に差をつけ、個々の住人も周辺の住宅地の住人も遠方から訪れた人も日常的に利用しやすくする。
個室→ショーウィンドウのように個人が貸し出せるものを見せられるシェアウィンドウを設け、外部に干渉することを促す。

6.総合サービス施設としての役割

公私混同により様々な人を受け入れやすい特性と立地のよさを活用し、この場全体をデイサービス施設として利用する。ここへ来た人々は、決まった流れはなく思い思いに過ごすことができる。登録した人はそれぞれの施設ごとに料金を支払うことで利用でき、デイサービス施設としてだけでなく、老人ホームの人が日中をここで過ごせたり、学生が放課後勉強しに来たり、シェアキッチンを主婦の交流や子供支援の場とすることができる。周辺住民にとどまらない更なる集客による機能の活発化を図る。

(図1)混ざり合う街の様子(写真)



2003-2023, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2023-02-10更新