卒業研究要旨(2023年度)

汽水の場

2023年度卒業研究 空間デザイン研究室 石井美菜

1.はじめに

医療の発達により救われる子どもたちは増えた(引用1)しかし、長期にわたって治療を受け、社会のコミュニティから隔離された子どもたちは病院内という安定した空間から、ある意味不安定で複雑な社会生活へと戻る。病気の完治から、すぐに元の生活に戻ることができるわけではない。問題点として障がいを持った者のことは家族で面倒を見るべきであるという風潮がある。家族がいつまでもそばで支えられると環境は、支えられる本人と家族双方に負担がかかってしまう。少しずつでも自立(生活・成長)できる環境が必要なのではないか。この家族と本人の関係を空間のつながりによってより豊かに生活できる場所を作る。豊かな生活には本人の意思や選択する余地があることだと考えた。身体をまもるために平面的な安定した場所は必要だが、成長や経験のためを考えると複雑な環境でしか起こらない偶然性や出会いがあると考える。
病気などで行動が制限されていても、環境を整えれば、自身の選択で生活の場を広げることができる、そのような場所を提案したい。

2.基本設計

自分の部屋と家族との関係

① 家空間の中の家族部屋と子供部屋の関係
→家の中に自室が確立してある状態。家という枠の中にあるが、相互のプライバシーは保たれている。

② 家族空間に自分の部屋がある関係
→リビングなど、家族の共有空間内に自室がある状態。見守る・見守られている状態で安定しているが、プライバシー性は低い。

③ 個室が主体で家族の空間が付属している状態
→一人暮らしがこの状態にあたる。あくまで自分が空間の主体で家族が一時的に自分の部屋にいる状態。家族と基本離れている状態のため関係性が薄くなってしまう。

この関係性は子どもの年齢や家族との関係によって変化するものであるため、それぞれに適した空間設計があると考えた。

想定人数13人
医療的ケアが必要だが、支援があれば入院せずに生活できる子どもたち
・家族と離れて生活している子どもたち9人
・家族と生活するこども4人

空間構成
・生活
3〜4人の個室と共有部屋を1つのまとまりとして形成するような部屋配置→個人から段階的に関わりを持たせることで場所への目的意識や人との関わり方を身につける
・窓の高さを揃えることで奥までの空間の繋がりを感じる構成
・本人の要望によって扉や壁を開閉でき、自分の領域をもつ→関わりを持つ範囲の選択をできることによって体調管理、自分のことを考えられるようになり、プライバシー性を保たれるようにする。
・支援
訪問看護のステーションを建物内に設置し、支援を受けられるようにする。
・公共空間との交わり
レベル差をつける事によって空間を緩やかに分け、生活の場と公共の場が交わり、社会とのつながりが確保できる。(図書館・スーパーマーケット・広場など)
なるべく日常に近い場所との交差で当たり前の経験(あいさつ、買い物、歩く、見る)・五感・社会性を身につける。

家族と離れて暮らすことになっても、空間的なつながりや支援があることによってここで成長していくことができ、自立した生活を送ることができる。
ここは少人数の集団生活の中で、多様な空間との関係によって様々な経験をして成長していき、環境に支えられながら、自分で生活できるようになる場所である。

(図1)自分の部屋と家族との関係



2003-2024, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2024-02-20更新