卒業研究要旨(2023年度)

Instagramの投稿画像に対する評価構造とその影響 ~美術館の画像を通して~

2023年度卒業研究 空間デザイン研究室 磯谷遥

1.背景・目的

Instagramは若者に大きな影響を与えている。本研究では、Instagramに投稿された画像の中で「行きたい」という意思決定に繋がる写真の特徴と、行動に繋がる評価構造を明らかにする。本研究では、評価の理由や構成要素との関連だけではなく、評価者と写真の関わり方も含めて検討する。

2.調査概要

2-1.投稿画像の調査

#や位置情報検索から、投稿数7万件以上の美術館13館(表1)それぞれ50枚、計650枚の投稿画像から画像の分類を行う。いずれも美術館の内外を背景に人物を中心とした写真である。

2-2.ヒアリング調査
2-1で使用した画像から34枚の画像を選定し、大学生25人を対象に、「行きたい」度合いを5段階で評価させ、「行きたい」理由や要素をヒアリングし、評価構造図を作成した。

3.調査結果

3-1. 投稿画像の分類

650枚の対象画像を、人物の背景、人物の主張の強さ、色味、雰囲気の4項目について写真の分類を行った(表2,3,4,5)。人物背景「その他」の中には、抽象的な壁を背景にした投稿など、人物に意識が強く向いた、人物の主張が強いものが見られた。また、雰囲気は色味や背景との関連が深いなど項目同士に様々な関連を見て取ることができた。

3-2.3タイプの評価構造

「行きたい」に繋がる評価の仕方と写真との関わり方から、主に作品や建築をメインにした写真に対する「A.鑑賞」、主に空間体験を表わす写真に対する「B.疑似体験」、主に人物中心の写真に対する「C.撮影者・被写体への同化」の3タイプが見出された(表6)。

Aは作品など対象物に対するインパクトや面白さ、美しさなどが評価され、外から見る視点による客観的な評価である。Bは写真の中の世界に対する楽しさや迫力、非日常などが評価された。そこに映る人に自分を投影し、写真の中の世界を能動的に動き回り、写真の中の世界を体験しながらその魅力に出会うという空間の内側からの視点である。Cでは被写体の背景の統一感、おしゃれさ、雰囲気などを評価しており、自分が撮影者/被写体に同化して似た写真を撮りたい、それを投稿したいとする意識が現れる。さらに、そこには投稿した際の写真を見る他者の評価までが関わるだろう。

4.まとめ

3タイプの評価構造はそれぞれ独立しているのではなく、3つの評価軸として重層的に組み合わされて「行きたい」という評価に繋がるのではないだろうか。それがInstagramならではの影響をもたらすものと考える。

(表1)調査対象美術館
・国立西洋美術館 ・国立新美術館 ・森美術館 ・金沢21世紀美術館 ・彫刻の森美術館 ・豊田市美術館 ・大塚国際美術館
・東京都庭園美術館 ・兵庫県立美術館 ・京セラ美術館 ・東京都美術館 ・東京都現代美術館 ・角川武蔵野ミュージアム

(表6)3タイプの評価構造
A. 鑑賞
(概要)作品のもつ要素に対する評価で、作品の魅力を外側の目線によって評価する。
(評価の対象)刺激としての作品(アート作品、建物、空間を含む)
(評価要素)インパクト、面白さ、美しさ
(評価方法)受動的に刺激を受けて作品を評価する(反応としての評価)
(評価する視点)評価者(外側)
(評価する点)アート作品や建築などの刺激としての作品が魅力的であるか、その魅力が写真でうまく表現されているか
(写る人の役割)対象物の紹介者、または引き立て役
(評価のイメージ)

B. 疑似体験
(概要)写真に写る人に乗り移り、その空間を疑似体験して空間を内側から評価する。
(評価の対象)写真で表現される空間体験・世界観
(評価要素)楽しさや迫力、非日常感
(評価方法)能動的に写真の中の世界に入り込み、模索して評価する。その空間・世界に没入する。
(評価する視点)空間の体験者(内側)
(評価する点)写真の中の世界を能動的に動き回ってみて、魅力的な空間かどうか
(写る人の役割)評価者の憑依先、世界観をつくる
(評価のイメージ)

C. 撮影者・被写体への同化
(概要)写真に写る被写体、あるいは撮影者に対する評価。投稿する際の他者の評価も意識する。
(評価の対象)写写真に写る被写体、あるいは撮影者
(評価要素)統一感、おしゃれさ、雰囲気
(評価方法)撮る/撮られる存在に身を移して評価する。また投稿する際の他者の評価も意識して評価する。
(評価する視点)写真の撮影者・被写体・投稿者(内側,空想)
(評価する点)背景の切り取り方、角度、明るさ、色彩、素材、被写体の服装・髪型・ポーズと背景の統一感、自身のInstagramに合うか
(写る人の役割)評価者の憑依先
(評価のイメージ)



2003-2024, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2024-02-20更新