卒業研究要旨(2023年度)

能動的自転車ストリート

2023年度卒業研究 空間デザイン研究室 田食圭織

1.はじめに

 現在の都市は、自動車、歩行者に優先・最適化されている。そのため、建物は道路に平行に並び、ファサードが閉じられている。幹線道路では、自動車の高速走行、安定した空間環境であるがゆえに、周辺環境の情報を逃し、関わりを遮断している。それに対して、自転車は周辺環境と密接に関わりあうことが可能である。「歩くより速く自動車より遅い速度で走る」、「すぐに止まることができる」、「オープンな環境」、「人と近い身体的スケール」であることから、自転車は能動的である。自転車の能動性をいかし、自転車に最適化した通りを再構築する。

2.敷地概要

対象敷地:東京都千代田区神田小川町1丁目周辺 敷地面積:約28,384㎡(東西約200m×南北約150m)

この敷地は、地下鉄が通っており地上に線路がなく、大通り、路地から構成されている。自転車から都市を再構築するモデル都市として、自転車の能動性を最大限にいかせるためこの敷地を選定した。

3.設計コンセプト

 現在の自動車・歩行者に最適化した通りであれば見落としてしまうものを、自転車に最適化した通りでは気づき、止まることができる。出発地から目的地へただ位置が変わる自動車の移動から、出発地から目的地までの間に能動的選択が行われ、グラデーションがつくられる移動になることを目指す。

4.設計手法

 移動手段としてある乗り物は自転車だけに想定する。道路に沿って並ぶ建物の店舗、建物内の機能、性質が道路に滲み出すまちを形成していく。
①自転車道路:大通りの中央に、片側幅8mの左側通行道路を設ける。通勤・通学や配達など、スピード重視の移動を目的とする。
②共存道路(大通り、路地):進行方向を定めず、散歩のようにゆっくり走る。大通りは片側、路地は両側から滲み出す。
③島:大通りの共存道路上に様々な形、大きさの島を設置する。島上には、近くの建物の要素や休憩スペースを設置する。ピンボールのように島を避けながら様々な方向に進み、環境や建物の滲み出しと混ざり合い、いくつもの出会いを生み出す。
④台形ゾーン:共存道路と路地が交わる部分。路地に引き込まれるように路地に向かってすぼまり、建物の滲み出し要素は設けない。
⑤サイクルスルー:カフェ、ファストフード店など、気軽に寄れる店に、店内に入らず自転車に乗ったまま購入することができる。
⑥駐輪ベンチ:ベンチのすきまに自転車を差し込み、自分の自転車を仕切りとして利用することで、パブリック空間の中にプライベート空間を作り出す。
⑦自転車屋台:現在の駐車場を駐輪場兼自転車屋台スペースとし、コミュニティスペースとして利用する。

(図1)敷地図
(図2)大通り
(図3)路地



2003-2024, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2024-02-20更新