2002年度修士論文講評

屋根のコケ緑化に関する研究 −金沢におけるコケ瓦の提案と可能性−

2002年度修士論文 宮田 理勢子

 本論文は、瓦屋根+コケを用いた屋根緑化の手法を提案し、その有効性と可能性についてさまざまな角度から検証・考察したものである。

 屋上・屋根緑化とは、都市部において減少しつつある緑を屋根面を利用して増やし、同時に室内の温熱環境を適度に調整することによって省エネルギー効果をねらうものとして注目されている。現在さまざまな手法が提案されており、またその環境調整的な効果が検証されているが、現実的にこれらの多くの手法は、住宅を中心とした一般的な建築に応用されているとは言えない状況である。というのも、土壌の必要な植物を用いる手法ではRC造等によるフラットスラブである必要があり、傾斜屋根の場合には屋根面を特殊加工する大規模な改修が不可欠である。それに加えて維持管理設備などを備えるとともに、日常的なメンテナンスが必要となるなど、居住者への負担も大きい。

 このような状況を背景に、本論文では一般的な住宅建築に適用可能な屋根緑化の手法として、「既存の瓦+軽量のコケ」という組み合わせに注目する。瓦という既存の施工技術を用いることにより、瓦屋根の住宅にそのまま適用することが可能である。そして様々な文献調査や専門家に対するヒアリングを通して、コケが瓦に根付きうること、居住者による日常的なメンテナンスなしで維持が可能であること、保水力が高く蒸散作用も期待できること、などを見出している。そこから瓦にコケを根付かせる「コケ瓦」の手法が提案される。

 「コケ瓦」の効果の検証は、主に、室内の環境調整作用と、既存の町並み景観に対する寄与、の2つの側面からなされている。「コケ瓦」の断熱性能を測定する実験によって、冬期よりも夏期の室内の快適性向上や冷房負荷軽減に対する有効性が示唆されている。また金沢の瓦屋根をコケ瓦へとシミュレートした景観評価実験を行った結果、既存の歴史的町並みに馴染みつつも新しい景観を創造する可能性を見出している。これは、建築環境工学分野を中心とした屋上・屋根緑化に関わる多くの既往研究では見落とされがちな視点でもある。それぞれの実験・検証等については荒削りな部分もあり、専門的にみるとより緻密な実験計画による仮設・検証が求められる部分もあると思われるが、本論文は何よりも新しい手法の提案に重点を置いたものであり、その可能性を多面的に見出し、実用化に結びつけていく上でステップになりうるものとして評価されるべきだろう。

 以上より本論文は、今後の発展性にも期待できる独創的な論文として評価できるものであり、修士論文に値すると認められる。



2003-2010, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2010-10-24更新