tachi's COLUMN

戻る

正月営業のスーパー(2004.02.08)

  早いもので、ついこの間年が明けたかと思っていたら、もうお正月は1月も前のこととなってしまいました。それにしても最近は本当に、元日からやっているお店が増えたように思います。昨日まで年末大売り出しをしていたはずなのに、今日の朝から早くも初売りをしている。お店には福袋が並べられているわけですが、もちろんいつもと変わらない商品も並べられています。いつもに比べれば確かに元日からやっている店は少ないですし、売っているものも野菜などを見れば、正月値段でいくぶん(場合によってはかなり)高くなっていることもあります。でも基本的にふだんとさほど変わらない買い物はできるわけで、かくいう私も2日の午前中から最寄りのスーパーへコーヒーと牛乳を買いに行ってしまいました。おそらく何か安いものがでていたのでしょう、電気売り場だけはやけに混んでおり、比較的開店直後だったにもかかわらず、目玉商品が品切れになっているようでしたが、食料品売り場などはふだんとほとんど変わらない状況でした。数人のおじさんがパックの弁当をもってレジに並んでいたりして、正月らしい風情などは感じられたものではありません。

 私らが子どもの頃は(私「ら」って誰なんだろう?)、正月の少なくとも3ヶ日くらいはどこの店も休むものでした。もちろん近くにコンビニなんてものはありません。最寄りのよろず屋も、駅前のスーパーも、ちょっと離れたところにある個人商店も、すべて正月休みで、そのいつもと違うガランとした風景が、かえって正月らしさを醸し出していたような気がします。5〜6年前に住んでいた駒込の近くの商店街は、やはり正月3ヶ日くらいはこぞって休んでおり、店のシャッターに貼られた干支のポスターが延々と連なる商店街を、ベビーカーを押しながらのんびり散歩しつつ、近所の神社に初詣に行ってみたりしたことを思い出します。

 そしてこの商店街では、年末になると八百屋やスーパーなどで不思議な食材が並べられていました。「クワイ」「ヤツガシラ」「京にんじん」など、ふだんは全く見たことのない野菜が、いろんな店でふつうに店先に並んでいるのです。千住の親戚筋に正月に訪れたとき、これらの野菜がおせち料理にふつうに入っており、たぶんお正月向きの地域限定ポピュラーな野菜なんだろうと思います。(その後移り住んだ、千葉でも多摩地域でも、クワイやヤツガシラなどがスーパーで並んでいるのを見たことはありません。)このような、年末には正月向けのさまざまな野菜が店先に並び、年が明けると潔く正月中はみんな休む、というメリハリの強さが、明らかに正月らしさを生み出す大きな役割を果たしていたように思います。

 そう、お正月には、誰も仕事もしていなければ、誰も買い物もしない。いつもと違った正月らしい過ごし方をする。うっかり買い忘れたものなどがあれば、仕方がないので正月が終わるまで、何とかやりくりしたり我慢したりしてしのぎきる。そのような開放さ、不便さ、割り切りなどを含み込んだ非日常の世界こそが、お正月だったのではないでしょうか。そのお正月の非日常性を満喫するために、暮れには慌ただしく一生懸命準備万端整える、そして、その苦労があってこそ正月が正月らしく感じられたのではないでしょうか。

 しかし、元日からスーパーでパンと牛乳を買っていたり、コンビニで弁当を買っているのでは、まあいつもの生活と全然変わっていないわけです。別にがんばって慌てて年を越す準備をする必要もなく、年が変わったからと言ってかしこまったり浮かれたり必要もなく、単に昨日が今日になり年の呼び方が変わっただけのことです。テレビの中だけ浮かれて大騒ぎしていますが、こっちの世界は何も変わってないよ、何のこっちゃ、という感じです。これは単に年をとったからだとか、感受性が鈍ってきたからだということではなく、やはり社会の変質に原因があるんじゃないだろうか、と思っています。

 やはり、商売も、正月くらいは潔く休んでもいいんじゃないでしょうか。大型スーパーで元日からオープンするということは、それだけ従業員の人も元日から出勤して働かなきゃいけないということでもあります。その大勢の従業員の家庭では、のんびり正月気分を味わうどころではないでしょう。だれも正月らしく過ごしていないのに、売っているものやテレビの番組の中だけで正月の雰囲気だけを演出しており、しかもその雰囲気に流されて形だけ正月らしさを無理矢理味わわされている、という何とも倒錯した状況のようにすら思えてきます。お店が元日からオープンしていれば確かに便利ではありますが、それは私たちが不便さに備えるということを忘れてしまうことかもしれません。

 最近では大型スーパーも24時間営業を始めたところがあるようです。それでけっこう客も入り、それなりに売り上げが上がったりもしているようです。しかし、店の経済効果や生き残りという視点ではなく、私たちの生活という視点からみたときに、本当にそこまでする必要があるのか、そして私たちの生活に実はどんな影響を与えてしまうことになるのか、考えてみる必要があるように思います。


 まあ、少なくとも夜中にコンビニで薬を買えなくても慌てないように、ちょっとは備えておいてもいいんじゃないかなぁ?


2003-2004, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.