tachi's COLUMN

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交通が発達していること(ウィーンその2)(2004.09.28)

 ウィーンの町は、とくにその中心部分は東京都比べてかなりコンパクトなものですが、その公共交通はかなり充実しているように思います。路面電車、地下鉄、バスの網が町の中にかなり密度高く張り巡らされています。もともとコンパクトな町であり、歩いても大したことのない距離に観光資源が点在していますが、これらの交通網がきめ細かく観光資源を結びつけており、公共交通をうまく駆使することで、ウィーンの町なかをかなり効率的に移動することができるようになっています。

路面電車 路面電車内部

 これらの公共交通のもっとも特徴的だと思ったことは、行き先を定めていちいち切符を買うのではなく、1時間券・1日券・3日券・1週間券などと、決められた時間のなかで自由に乗り降りのできる仕組みになっていることです。市内の決められた範囲であれば路面電車でも地下鉄でもバスでも、自由に乗れます。まあ日本でも各都市にフリー切符のようなものはありますが、私鉄の会社によって乗れたり乗れなかったりすることもなく、また特別な切符としてフリー切符があるわけでなく、ふつうに乗車する人が誰でもこのフリーの乗車券を利用することになることは大きな違いです。しかも切符がけっこう安くて、月曜から次の月曜までの一週間定期が1500円程度でした。この値段で一週間とにかく市内の交通機関が乗り放題になりました。

 そしてもう一つの特徴は、駅に改札がないことです。電車でもバスでも地下鉄でも、いちいち切符を買って改札を通るということなく、切符さえ持っていれば、とにかく来たものに乗ればいいのです。バスや路面電車に乗る場合には、停留所に止まったときに、扉の外側にあるボタンを押すと扉が開き、降りるときは車内のボタンを押せば同様に扉が開きます。電車やバスに乗るときに切符が必要であることを忘れてしまうくらいの手軽さです。それでは切符を持っていなくても分からないんじゃないかとも思いますが、ときどき車内で検札があり、そのときに切符を持っていなかった場合にはかなり高額の罰金があるとのこと。もともと切符の値段が安いので、罰金を取られるようなリスクを冒すのは割が合わないような気がします。

地下鉄駅 路面電車ボタン

 この二つの特徴は、とにかく交通機関を利用するためのハードルを低くするのに役立っているような気がします。目的地を定めてそこまでの値段を調べて切符を買う日本の仕組みの場合には、交通機関はとにかく出発地と目的地を結ぶための手段ということになります。途中で降りてしまえばその切符は無効になり、次に乗るときには当然ですが切符を買い直す必要があります。ウィーンの仕組みの場合には、歩いていてちょっと疲れたなと思ったら、たまたま来た路面電車に乗って、一駅だけ乗ってすぐに降りてもいい。実際にRingと呼ばれる環状線にのんびり一周乗っていると、歩いても大したことのない一駅や二駅分で降りてしまう人も多く、それだけ実に気軽に利用されているんだと思います。

 この公共交通と市民との距離感という点でいえば、路面電車が本当にすぐ近くを走っていくことに何度か驚きました。路面電車なので当たり前といえばそうなのですが、大通りだけでなく、裏の路地のようなところにも線路が敷かれていて、ふつうに電車が走っています。歩いている人たちも路面電車の鼻先のようなところをすり抜けて歩いていきます。このような物理的な距離の近さが、利用する際の心理的な距離感の近さに繋がっているのかもしれませんが、ただまあ、よく事故がおきないものだと思います。実際にはどうなのでしょう。

停留所 裏路地

 あと、路面電車でも地下鉄でもバスでも目についたのは、犬のサインです。犬を連れて乗るときには必ず口輪をつけてヒモでつなぐこと、という意味のものです。つまり、ふつうに犬を連れて(ケージに押し込んだりせずに)バスや電車にのることができるのです。実際に大型犬が乗ってくることも何度もありました。バスに乗ってちょっとそこまで行くのに犬を連れて行ってもいいし、犬の散歩をしていて気が向いたら一駅路面電車に乗り込んでもいいわけです。これは、ウィーンにおける人と犬との関係を示すものでもあるし、またそのような関係を前提とした公共交通の考え方をも示しているような気がします。あるいはヨーロッパでは当たり前のことが日本では全然当たり前ではないということなのかもしれません。抽象的ですが、まずは生活している人のライフスタイルがあって、それを支えるための公共交通であるということでしょうか。

 でも、路面電車のドアのボタンの横にあった「アイスクリーム禁止」のサインはちょっと可笑しかったです。そういえば町を歩いていてもやたらとアイスクリームを食べている人を見かけました。電車のなかでさすがにそれだけはやめてね、と。それから、路面電車の停留所にときどき置かれた体重計は何のため?

車内サイン 体重計


2004, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.