Studies:卒業論文の進め方 1



卒論のテーマ

(1)テーマは身近なものがいい

 自分の興味のあること、自分のよく知っていること、自分の関わっていることなどのなかにテーマはあります。そんな身近で小さな、固有の問題のようなことの中に、つい見過ごしてしまうようなことの中にでも、一般性をもったテーマはあるものです。環境問題とか都市問題とかバリアフリーとか、すごく重要なことのように言われていることがたくさんありますが(もちろん重要な問題ですが)、大きなテーマから入っていくと、往々にして個々の問題にいきつかなかったり、すでに言われていること以上の新しい知見を得るということが難しいのです。出発点としては、自分あるいは自分の知っている人のふだんの日常生活の中に、その日常生活で関わっている生活環境の中に潜んでいる、テーマのヒントを見つける(自ら見出す)ことが大事です。そのためには私たちの普段の生活にもっと意識的に注目することも必要かもしれません。ほんの小さな疑問でも、どうしてそうなんだろう、ほんとうにそうなんだろうか、他の人の場合はどうなんだろう、ほかの環境の場合はどうなんだろう、などと考えをふくらましていくことによって、実はすごく重要なテーマに結びついていくこともあるのです。

(2)当たり前のことに対する問題意識

 私たちの生活はたいてい当たり前のように過ぎていきます。ですから私たちの生活を取り巻いている環境も当たり前のことのように思い、そこに潜んでいる問題点や、あるいはなくなって初めて気づくような価値は、ついつい見過ごされがちです。また、今多くの人や社会が「よい」と見なしているものは何となく(あまり根拠もなしに)いいものだと思いがちです。でもそこでちょっと立ち止まって考えてみます。ちょっとまてよ、本当にそうなのかな?それは環境に対しての疑問であってもいいし、自分の生活行動に対する疑問であってもいいのです。表面的な問題のように見えることも、どうしてそれを疑問に思ったのだろう、本当にわかりたいことは何だろう、何が分かると嬉しかったりいいことがあるのだろう、とさらに疑問を重ねていくうちに、当たり前のように思っていたことが実は意外と当たり前のことではなかったり、実は昔から哲学的な大問題だったことがあったりするかもしれません。また、ひとつの問いだけではあまりたいしたテーマにはならないような気がします。でもそのような問いをいくつも発しているうちに、それらのなかに何か共通の問題意識のようなものが生まれてくるかもしれません。そこから、私たちの生活に根ざした実感的なテーマを見出すことができれば、卒論に十分近づいたと言えるでしょう。

(3)小さな発見

 論文というのは研究の成果です。研究とは単に本を読んで勉強したり整理してまとめることではありません。どんなに小さなものでも、何か自分だけの発見や自分だけのデータ、自分だけの考え方などを作り出すことが必要です。多くの研究では始め、既往研究をよく勉強して、今まではどんなことが言われてきたのか、どんなことが言われていないのか、どんな条件でどんな調査・実験をしてどんな分析によってその結果が出てきたのか、などについて調べます。そうすることによって、それらとは違う何かを見出そうとするのです。それは今までとは大きく異なる考え方を提唱する場合もありますし、これまでとちょっとだけ条件を変えたり対象を変えたりして検証する、という場合もありますが、そのようにして自分だけの、オリジナルな成果を作り出しています。

卒論のすすめ方

 ひとつのやり方でこうすればうまくいく、という万能な手法はありません。自分のやりたいこと、知りたいことによって、その進め方はそれぞれ異なってくるでしょう。調査の方法、分析の方法は、極端に言えば研究の数だけあり、具体的な手法については各自既往研究などを参考にしてください。ここでは、卒論に関わりそうな一般的な方法の例を紹介します。

(1)勉強する(本を読む)

 本を読んだり人の話を聞いたりして、今どんなことが言われているのか、何が問題とされているのか、自分の言いたいことをどんな手法で表現しているのか、などについて勉強する。とにかく世の中にはどんなことをテーマにしているのかを知る上でも、既往研究に目を通すことは重要である。

(2)資料を集める

 自分の知りたいことに関して、さまざまな文献や事例などの資料を集めて一望してみる。共通の問題点や現在の傾向、時間的な流れによる変化やタイプわけなど、大きな特徴を押さえておく。収集した事例の分析だけでも、かなりのことが見いだせることがある。

(3)実態を調べる

 現場に行って、実際の環境の様子やそこでの人の様子、使われ方などについての実態を捉える。施設の利用者数やその属性など、すでに実態調査がなされているものもあるが、自分が知りたい内容については多くの場合、自分で見に行って、現状調査したり観察したり、何らかの形でデータとして記録したりする必要がある。

(4)人の話を聞く

 見に行って観察しただけではわからないことでも、生活者や利用者に話を聞くと、非常に実感的にありありと生活と環境との関わりについて教えてくれることがある。そのような現場の人の話は、さまざまなテーマの宝庫でもあり、きちんと聞きたいことを整理した上で聞き取った話の内容は、論文のデータともなりうるものである。

(5)多くの人の話をたばねる

 一人や数人の話だけでは特殊例かもしれない、もっと多くの人の全体的な傾向を知りたいと思ったら、統一したフォーマットの質問紙を多くの人に配布して(あるいは直接答えてもらい)、大量のデータを得ることが必要になる。あることについての実態や考え方について尋ねることで、一般的なひとびとの特徴を見出すことができる。ただし本当に有効な成果を得るには、念入りな質問紙の設計が必要である。

(6)実験する

 知りたいことが非常に具体的になってきて、あることをもたらす原因を特定したい、二つの出来事の因果関係を明らかにしたいときに、綿密に計画された実験が行われる。実験結果を有効なものとするためには、明確な仮説に基づいて極めて厳密に条件を設定し、被験者をコントロールする必要がある。仮説を見出すためのプレ実験を行うこともある。

(7)理論的に考える

 さまざまな形で得られたデータを用いて、何を自分のオリジナリティのあるものとして結論づけるか、それを他の人を納得させるものとして表現できるかということは、理論的に話を組み立てることが重要である。とくに文献や資料など、自分だけのデータではないものをもとに論文を書く場合には、とりわけ理論性が問われることになる。理論的な論の展開があってはじめて、具体的な提案やシミュレーションなどに説得力を持たせるのことができる。


2003-2008, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.