ジェロントロジー教育の意義と必要性・各教科とジェロントロジー教育

ジェロントロジー教育の意義と必要性

テキサス大学 HRC The Positively Aging® curriculumにて

テキサス大学
HRC The Positively Aging® curriculum にて

 ここでは、多くの先行研究の中で、サクセスフル・エイジングの諸理論をふまえた日本におけるジェロントロジー教育を構想11)にて示します。その際、柴田のいうサクセスフル・エイジングの構成要素は、「高齢社会白書」、「健康日本21」等に盛り込まれた、高齢者が社会の負担とならずに生活し、社会に貢献する存在としてその力を発揮していってほしいと願う、社会の側からも要請が高い要素であるといえます。しかし、学校教育の目的として、そのような社会の要請に応える面を重視しすぎた場合、個人が社会にとって有用か有益かといった点が強調されがちになってしまう可能性があります。それは、人間性を疎外し、物象化し、効率性を求めることにもつながるともいえます。細江の「生涯発達におけるサクセスフル・エイジングを目的とした設計科学」という定義のように、あくまで、個人が個人の主観として人生を健康で豊かに、自己実現しながら生きていくという面を重視した結果が、社会の要請にも一部応えるものであるとの考え方をとります。
 教育老年学と関連する研究では、Lichtenstein,Pruskiら12)(2003)が、アメリカの児童生徒のエイジズムの形成についての調査を行ってます。中学生の高齢者イメージについての調査では、中学生に固定観念は生じておらず、幅広いイメージが生じていました。このことから、その後、調査結果をもとに、様々な情報を収集し自己決定ができるようになり自分の意見を形成していく中学生の時期においては、少子高齢化社会における様々な現象を生徒に知ってもらい、高齢化や高齢者への関心を持たせるジェロントロジー教育の必要性が浮き彫りになった、と指摘しています。
 日本においても、小中学生の高齢者イメージに関する研究で、中野ら13)は、年齢が低いときの高齢者との交流経験が高齢者イメージを肯定的にすることから小中学校での世代間交流の必要性を指摘し、馬場ら14)の研究では、中学生は比較的肯定的な高齢者イメージを抱いているものの、小学生に比べて否定的な傾向が強まっていること、高齢者との交流経験が多いほど肯定的なイメージを抱くことを指摘しています。日本におけるジェロントロジー教育の意義としては、@エイジズムの形成を阻止し、多くの情報や他者との関わりの中から自己の判断で高齢期や高齢者を肯定的なイメージでとらえていくこと、Aサクセスフル・エイジングの考え方に基づき、多くの情報や他者との関わりの中から、人生を健康で豊かに自己実現しながら生きるための生活や個人にとっての満足感や幸福感の追究を個人の力で図れるようにしていくということ、の2点が考えられます。@に関しては、小・中学校の総合的な学習の時間等で「福祉」と関連付け、既に交流活動を中心とした多くの授業実践がなされています。また、高等学校においては「家庭総合」「家庭一般」等で、高齢社会の実態および介護等の高齢社会の担い手としての内容を含んだ学習が実習を伴ってなされています。他方で、ジェロントロジー教育のもう一つの意義として、Aに挙げたような、サクセスフル・エイジングの考え方に基づいた自己の生活や生き方に還元した学習により、自分自身がこれからの人生を健康で豊かに自己実現しながら生きることや個人にとっての満足感や幸福感の追究を、個人の力で図れるようにしていくということが重要であるといえます。Aについては、高等学校以前の学習に位置づけられます。なぜなら、介護を学ぶ以前に、人生を豊かに生きるための知識や技術、人生観、関係性等を学びながら人生の先輩に対する肯定的なイメージや将来の自己高齢者像の肯定的なイメージを高めていく学習を位置づけて構想していく必要性があると考えるからです。

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