もみじの寄せ書

  書幅 阪正臣・鳥山啓・下田歌子共作 明治二九年五月

 欧米より帰朝の翌年、華族女学校の職員室で下田先生を囲んでの合作。啓とある署名は、当時の教員名簿によれば、鳥山啓らしい。ほのぼのとした雰囲気が伝わってくる書幅である。

<翻刻>

    下田学監の君教員室へ来給ひて米国を
    めぐりしをりの衣をとりいでゝ着つればかくしの 
    底にこの一葉なむ入りゐたるとて見せ給へりければ 

                        正臣

 いろあせぬ もみぢをみれば
    うなばらのかなたのものと 
         おもはれぬかな 


 波のよるの にしきならまし うなばらの
   かなたの秋を きミに見せずば   

                    歌子


 ことくにの 
  もみぢの 
   いろに しき 
    しまの こと葉の 
     はなもさきく 
      はりつゝ 

         啓 畫も


 時は明治廿九年五月十日あまり雨いとしめやかに
                    ふる日也けり