環境心理学 本の紹介

■総論・教科書

■総論・教科書

大山正・乾正雄編:建築のための心理学、彰国社、1969
デヴィッド・カンター、乾正雄編:環境心理とは何か、彰国社、1972
プロシャンスキー他著、穐山貞登他訳編:環境心理学1〜6、誠信書房、1974〜75
相馬一郎・佐古順彦共著:環境心理学、福村出版、1976
イッテルソン他著、望月衛他訳:環境心理の基礎・環境心理の応用、彰国社、1977
デヴィッド・カンター著、宮田紀元他訳:建築心理講義、彰国社、1979
C.マーサー著、永田良昭訳:環境心理学序説、新曜社、1979
R.モース著、望月衛訳:環境の人間性、朝倉書店、1979
望月衛・大山正編:環境心理学、朝倉書店、1979
A.メーラビアン著、岩下豊彦他訳:ヒューマンスペース、川島書店、1981
乾正雄他著:新建築学大系11 環境心理、彰国社、1982
デヴィッド・カンター著、宮田紀元他訳:場所の心理学、彰国社、1982
品田譲・立花直美・杉山恵一共著:都市の人間環境、共立出版、1987
乾正雄:やわらかい環境論、海鳴社、1988
日本建築学会編:建築・都市計画のための空間学、井上書院、1990
T.Lee:Psychology and Environment,London,Merbuen,1976
J.Farbstein:People in Places−Experiencing,Using and Changing the Built Environment, EnglewoodCliffs, Prentice Hall, 1976
J.T.Lang:Creating Architectural Theory,New York,Van Nostrand Reinhold Co.,1987

追加:
G.T.ムーアほか:環境デザイン学入門 その導入過程と展望、鹿島出版会、1997
中島義明、大野隆造編:すまう −住行動の心理学−(人間行動学講座3)、朝倉書店
日本建築学会編:人間−環境系のデザイン、彰国社、1997

解説: 
 先駆的研究のレビューをしながら各研究者が環境心理学の体系化を試みた研究者向けのもの、それをある個別の分野について行ったもの、いくつかの代表的な研究を紹介するもの、研究的解決よりも扱おうとしている問題意識を訴えるもの、この分野で扱う対象を一般初心者向けにやさしく例示するものなど、いろいろな立場(研究、設計;心理学、建築学など)からの、いろいろなレベルのものがある。
 研究者向けの環境心理学の体系化の試みとしてはイッテルソンらの「環境心理の基礎・応用」、マーサーの「環境心理学序説」、カンターの「場所の心理学」などが代表的といえる。Langの「Creating Architectural Theory」は建築設計の立場からの体系化の試みである。一般初心者向けのものとしては、Farbstein の「People in Places」、乾の「やわらかい環境論」などがある。
 環境心理学のとらえ方はこのようにいろいろなレベルと立場のものがあるが、これらに共通するものの中に環境心理学の中心的課題、考え方、動向が見いだせるであろう。

■心理学基礎および周辺学問基礎

■心理学基礎および周辺学問基礎

レヴィン著、猪股佐登留訳:社会科学における場の理論、誠信書房、1956
メッツガー著、盛永四郎訳:視覚の法則、岩波書店、1972
U.ナイサー著、古崎敬・村瀬旻共訳:認知の構図、人文社会叢書1、サイエンス社、1978
J.J.ギブソン著、古崎他訳:生態学的視覚論、サイエンス社、1985
ガストン・バシュラール著、岩村行雄訳:空間の詩学、思想社、1969
O.F.ボルノー著、大塚恵一他訳:人間と空間、せりか書房、1978
J.V.ユクスキュル・G.クリサート共著、日高敏隆・野田保之共訳:生物から見た世界、思索社、1973

追加:
山本多喜司、S.ワップナー:人生移行の発達心理学、北大路書房、1991
D.A.ノーマン、野島久雄訳:誰のためのデザイン?、新曜社、1990
D.A.ノーマン:人を賢くする道具 ソフトテクノロジーの心理学、新曜社、1996
David Marr,“VISION A Computational Investigation into the Human Represent
ation and Processing of Visual Information”,W.H.Freeman and Company 、1982(邦訳:デビッド・マー著、乾敏郎・安藤広志訳:ビジョン —視覚の計算理論と脳内表現—、産業図書、1987)
大山正ら編:新編 感覚・知覚心理学ハンドブック、誠信書房、1994

解説:
 ひとりの人間が環境をいかに知覚し、意味づけ(認知)していくかという点が心理学においては重要な問題であった。ギブソンは環境からの刺激情報をどう処理するかについて述べているが、ナイサーは生活体が適応してきた環境が提供するもののみではなく、生活体自身が環境に働きかけることによって生じる認知の変化・発達に注目すべきだと主張している。
 なお、レヴィンは、環境は物理的環境そのものではなく心理学的空間(生活空間)であると述べ、後にバーカーらの生態学的心理学などに影響をあたえていくことになった。
人間の存在は空間と密接に関わっており、両者を切り離して考えるべきではないという現象学的視点は人間と環境の関係を明らかにする上で重要である。バシュラールは安全で庇護的である空間こそが根源的空間と考えているが、ボルノーは危険な空間をも生活の中に組み込み、その緊張を感じながら、その上で空間全体を信頼し自己をまかせることが真に住まうことだとしている。またユクスキュルらは、動物(生物)がその環境世界に完全に組み込まれているとし、その関係の密着性を明確にした。

■各論

■各論

*視環境

S.Hesselgren:The Language of architecture,Barking,Applied Science Publisher,1969
乾正雄:照明と視環境−建築設計講座−、理工図書、1978
乾正雄:建築の色彩設計、鹿島出版会、1976

解説:
 視環境を環境心理という視点からとらえるということは,視知覚を媒体にした環境と人間の心理的な相互関係に注目するということになり,その範囲は広く,視知覚,照明,色彩といった基礎的なものから,景観,形態といった美学的なものまでが含まれる。「The Language of architeture 」は,基礎的な知覚から現実の建築空間にまつわる問題を総括しており,邦訳はないが一読して損はない。一方,照明,色彩といった基礎的なものに注目した数少ない文献の中で,「照明と視環境」,「建築色彩設計」といった乾正雄の著作は,専門書としては勿論, 初学者の入門書としてもすぐれている。景観, 形態については,別項を参照されたい。

*音環境

日本音響学会編:聴覚と音響心理(音響工学講座6)、コロナ社、1978
R.マリー・シェーファー:世界の調律、平凡社、1986
永田穂:静けさ、よい音、よい響き、彰国社サイエンス、1986
近藤すすむ:音と行動の科学、同文書院、1986

追加:
難波精一郎、桑野園子:音の評価のための心理学的測定法、コロナ社、1998
鳥越けい子:サウンドスケープ その思想と実践、鹿島出版会(SD選書)、1997

解説:
 音環境の研究は、騒音の処理、音楽用ホールの響きの予測といった、後追い的な技術上の処理として扱われることが多かった。しかし最近は、音の環境の質を良くしていくという動きが現れ、より高度に心理的な問題を扱うようになり、今までの枠組の中でカバーしきれない領域も生じてきた。
 この分野における教科書的なものとしては、「聴覚と音響心理(音響工学講座6)」があげられる。これは聴覚的な基礎の知見を集大成したもので、心理的実験法、尺度構成法にも言及している。「音と行動の科学」は、音に対する人間の主観的・非数量的な反応や行動を行動科学的に評価し、まとめている。
新しい音環境のテーマとして『サウンドスケープ(音風景)』という概念を示しているのが、「世界の調律」である。道路交通騒音とか、飛行機騒音とか個別に対応するだけでは見失いがちであった音の全体的環境の問題について、独自の見解を示している(関連書:波の記譜法,時事通信社)。
建築周辺の話題として気楽に読めるものに、「静けさ、よい音、よい響き」がある。著者は音楽用ホールの音響設計の第一線で活躍しており、その題にある通り、騒音、音響機器の音質、ホールの音響などについて、彼の知見を分かりやすく示したものである。

*熱環境

中山昭雄編:温熱生理学、理工学社、1981
菊池安行・坂本 弘・佐藤方彦・田中正敏・吉田敬一共著:生理人類学入門、南江堂、1981
P.O.Fanger:Thermal Comfort,Danish Technical Press 、1970

解説:
 温熱環境を決定していく要素としては、環境側では気温・湿度・風速・放射、また人体側では着衣量や活動量が考えられ,今日ではこの6条件によった人体の熱収支計算に基づく検討が妥当と考えられておりすでに定常・均一な空間における温熱環境の評価はこの方法によりほぼ確立されている。しかし、非定常や不均一な、より実空間に近い温熱環境の評価方法に関しては、まだ十分に研究が進んでいるとはいえない。
 「温熱生理学」ではこの人体の熱収支や、人体内部に於ける体温調節のメカニズム等に関する詳細な記述があり、温熱環境を物理的に評価していく際の重要な手がかりを与えてくれるであろう。
 「生理人類学入門」では生理学からみた様々な環境に対する人体の適応方法等が述べられており、温熱環境については、その評価方法から人体の適応、人体への障害等について手際よくまとめて記述されている。

*人間工学

E.グランジャン著、洪 悦郎・鎌田清子・洪恵美子共訳:住居と人間、人間と技術社、1978
小原二郎、内田祥哉、宇野英隆共著:建築・室内・人間工学、鹿島出版会、1983

解説:
 人間工学とは、作業環境を人間の生理・心理的な諸特性に適合させるための科学として、もともとは人間−機械系の分野において発達してきた。今日においては、作業環境の対象は機械から建築に広げられ、室内における家具・設備の設計のための基礎科学として既に研究の蓄積も多い。「住居と人間」には、主に1960年代のヨーロッパにおける労働生理学の研究成果を中心にして、住居設計のための推奨事項がまとめられている。「建築・室内・人間工学」では、人体・感覚・生理・動作・心理の諸要素と物(建築)との関係について、豊富な調査・実験データをもとに説明されている。

*認知地図

ロジャー・M.ダウンズ他著、吉武泰水監訳:環境の空間的イメージ、鹿島出版会、1976

解説:
 認知地図研究は、一般に、都市空間のような一望できない大規模環境が日常生活においてもつ意味を問題としている。このために、知覚、記憶、推論、評価などの人間の諸能力を総合的に捉えて、大規模環境を想起する能力やそこで形成される表象の構造(イメージやそれを表現した図など)を分析するのがこの研究の特色である。「環境の空間的イメージ」は、それら研究論文のアンソロジーであり、環境の認知や表象構造に関する基礎理論や、環境の評価、定位能力、距離の主観的判断に関する各論などがおさめられている。

*プライバシー・パーソナルスペース・テリトリー

E.T.ホール著、日高敏隆他訳:かくれた次元、みすず書房、1970
R.ソマー著、穐山貞登訳:人間の空間、鹿島出版会、1972
D.モリス著、藤田統訳:マンウォッチング−−人間の行動学、小学館、1980
I.Altman:The Environment and Social Behavior,Monterey,Brooks/Cole,1975

解説:
 人間どうしの間のスペースのとり方、なわばり行動など、人間個体をとりまく空間にかかわる行動が対象であり、人間観察という方法が基盤にある。ホールは人間どうしの距離がコミュニケーションとの関係によって使い分けられていることに注目して距離を分類し、さらに文化との関連にも触れている。ソマーは人間が他人との間にとるスペース(パーソナルスペース)の重要性を指摘し、そのような人間的要因への配慮を欠いた現在の都市空間を批判している。アルトマンはプライバシーを軸にパーソナルスペース、テリトリー、混み合いなどといった概念をまとめ体系化した。モリスは空間というより動作・しぐさが対象であるが、人間を観察するという意味で興味深い。

*住環境

山本和郎編:生活環境とストレス 垣内出版、1985
吉田正昭:都市環境と住まいの心理学、彰国社、1980
山本和郎:コミュニティ心理学、東京大学出版会、1986

追加:
ラポポート:住まいと文化、大明堂、1987

解説:
 環境研究の中で一番大きな対象であり、人間が求める環境として最も重要なのが住環境である。吉田や山本らは、主に心理学的立場から、住居・コミュニティ・都市などに実際に生活する主体・住まい手として人間を位置付け、そこから得られた実証的データを基に住環境研究をまとめている。また、山本・渡辺らは、住まいの総合的評価の切り口として住環境ストレス概念を用いた一連の研究を行っている( 生活環境とストレス) 。

*ハウジング

C.アレグザンダー他著、岡田新一訳:コミュニティとプライバシィ、鹿島出版会、1967
O.ニューマン著、湯川利和訳:守りやすい住空間、鹿島出版会、1976
鈴木成文他著:集合住宅・住区、建築計画学、丸善、1974

解説:
 住宅地の空間構成は、機能的利便性のみにより決定することはできない。昭和30年代から、住戸内の使われ方研究を、住戸周辺へと拡大した形の研究が行われていたが、居住者の心理的な空間把握を主題とした鈴木らによる「生活領域」の研究は、計画上大きな指針を示した。また、高層住宅の多数建設を背景にC. アレグザンダー、S.シャマイエフや、O.ニュ−マンらの提案のもと、共有空間のグルーピングと、共有空間へ住戸を開放的に計画することが中心課題となった。近年は、空間の質、家のゆとりといった点にも目が向けられるようになり、ますます心理的研究が多く行われつつある分野である。

*生態学的心理学

R.G.Barker:Ecological Psychology, Stanford University, Stanford University Press, 1968
R.G.バーカー、P.V.ガンプ共著、安藤延男訳:大きな学校・小さな学校、新曜社、1982

追加:
アラン・W・ウィッカー、安藤延男監訳:生態学的心理学入門、九州大学出版会、1994

解説:
 生態学的心理学(Ecological Psycology)はロジャー・バーカーが生みだしたもので、実験中心の従来の心理学研究とは異なり、行動の自然観察手法を用いた点に特徴がある。またここでの中心概念は、行動と場所の強固な結合体としての行動場面(Behavior Setting)である。彼はここで物的環境の行動規定性を重視している。
 また彼は行動場面の枠組みの中で人手不足のもたらす影響について、この理論を用いて仮説をたてているが、特に「大きな学校、小さな学校」の中で、学校規模と児童の行動場面の関係についての結果を紹介している。

*形態

R.アルンハイム著、乾正雄訳:建築形態のダイナミクス、鹿島出版会、1980
小林重順:建築心理入門、彰国社、1969

解説:
 形態については環境心理以前に西洋美学としての歴史があるが,そのような知見を踏まえた上で心理学的に解釈し発展させたものが,環境心理における形態研究であると考えられる。そのもっとも代表的なものがR.アルンハイムの「建築形態のダイナミクス」で,少し難解な部分はあるが,ギリシャ以来の西欧美学の流れをしっかり咀嚼した建築美学の代表的な書物である。また,比較的独自の視点より整理したという意味で,小林重順の「建築心理入門」も興味深い。

*規模・尺度

戸沼幸市:人間尺度論、彰国社、1978
岡田光正、高橋鷹志共著:新建築学体系13 建築規模論、彰国社、1988

解説:
 尺度−スケールは、基本となる単位−モデュールとそれに対する比例関係−プロポーションによって構成される。建築や環境の計画においては、各々の問題に適した単位や比を見つけることが重要であるが、人間−環境系の研究では、特にそれが身体的・知覚的特性に基づいて考慮されている。「人間尺度論」では、日常生活に見られるさまざまな尺度概念が分かりやすく解説されており、「空間規模」では、建築や環境における規模の捉え方が一つの理論として呈示されている。

*景観

中村良夫他著:土木工学大系13 景観論、彰国社、1977
江山正美:スケープテクチュア、鹿島出版会、1978
芦原義信:外部空間の設計、彰国社、1975
芦原義信:街並の美学、続・街並の美学、岩波書店、1979、 1983
芦原義信:隠れた秩序、中央公論出版社、1983
樋口忠彦:景観の構造、技報堂、1975
鳴海邦碩編:景観からのまちづくり、学芸出版社、1988

追加:
中村良夫:風景学入門(中公新書)、中央公論社、1982

解説:
 景観研究は,人間の心から外部環境を見るという意味で,研究として始められた当初から環境心理的なものである。土木工学体系(13)の景観論は,既往の国内外の研究をまとめただけでなく実際の空間の設計法を示し,景観研究を総括的に理解する参考になる。また江山正美の「スケープテクチュア」は,造園学の立場から景観の分析を行ったもので,体系的に理解しやすく構成されている。一方芦原義信は,「外部空間の設計」「街並みの美学」「続・街並みの美学」という一連の著作で,文化的背景の違いをも考慮した景観論を展開し,樋口忠彦は「景観の構造」で日本の古くからの景観を分析した。これらの著作は独自の景観論を展開しており,興味深く読める。

*都市

K.リンチ著、丹下健三他訳:都市のイメージ、岩波書店、1968
志水英樹:街のイメージ構造、技報堂、1979
紙野桂人:人の動きと街のデザイン、彰国社、1980

解説:
 ここに挙げられている3冊は、認知地図研究との関連が大きい。「都市のイメージ」は、住民の思い描く都市イメージのなかで共通に現れるエレメントが、知覚特性によって五種類に整理できることを示した古典的名著である。「街のイメージ構造」は、想起されるエレメントの分布から、各市街地の固有な特徴が読みとれることを述べている。「人の動きと街のデザイン」は、街路や地下街などに見られる行動の特徴的パタンや、物的構成の認識のされ方が分かりやすく説明されている。

*POE・アセスメント

W.F.E.Preiser,H.Z.Rabinowitz,E.T.White:Post-Occupancy Evaluation,New York,Van Nostrand
Reinhold Co., 1988

追加:
FM推進連絡協議会編:ファシリティマネジメント・ガイドブック、日刊工業新聞社、1994
日本建築学会編:快適なオフィス環境がほしい 居住環境評価の方法、彰国社、1994

解説:
 POE(Post-Occupancy Evaluation) は過去の設計を顧み評価するばかりでなく、将来の設計に役立てる活動として捉えられるようになっている。使用者の現状の建築空間に対する満足度、要求、また行動に主に焦点をあて、その長所短所を的確に捉え蓄積し、今後の設計に反映する。情報科学の発達、社会構造の複雑化に伴う空間への機能的な要求の複雑化、Facility Management による経済的側面との統合によりPOEは重要視されている。ここに上げた本は著者らが携わった計画において、行われたPOEをまとめたものである。著者らの考える、建物を計画するための一般的なPOEの方法と、その実例を紹介している教科書的な書物である。

*設計方法・ユーザー参加・環境教育

C.アレグザンダー著、平田幹那訳:パターンランゲージ、鹿島出版会、1984
L.Halprin,J.Burns: Taking Part−A Workshop Approach to Collective Creativity, Cambridge,London, The MIT Press, 1974

追加:
ツァイゼル(根津、大橋監訳):デザインの心理学、西村書店、1995
W.ペニヤ:建築計画の展開 プロブレム・シーキング、鹿島出版会、1990
C.アレグザンダー:パタンランゲージによる住宅の建設、鹿島出版会
ヘンリー・サノフ:まちづくりゲーム 環境デザイン・ワークショップ、晶文社、1993

解説:
 環境心理研究は人間と環境の関係を解明するものであるが、研究に基づく知見や調査手法を、実際の計画においてどのように組み込んでいくかということ自体も極めて重要なテーマである。ハルプリンらによるコミュニティ・ワークショップは環境からの問題発掘・表現・計画などトータルな環境計画参加の場を実現する仕掛けであり、またアレグザンダーらによるパターン・ランゲージは、多くの研究や実例を基に良い環境を形成する為の言語をパターンという形でまとめたものであり、いずれも非専門家(ユーザー)が環境形成活動に参加可能にすることを意図している(パターン・ランゲージを用いた事例としては盈進学園東野高校が有名である)。また市民の環境に対する意識を高め、概念を共有するという意味で環境教育メディアに研究成果を生かしていくことも益々重要になってくるだろう。

*アフォーダンス

1.アフォーダンス
Gibson,J.J.、古崎敬他訳:生態学的視覚論、サイエンス社、1985.4(原著1979)
佐々木正人:アフォーダンス 新しい認知の理論、岩波科学ライブラリー、岩波新書、1994.5

2.デザインとアフォーダンス
Lang,J:建築理論の創造 環境デザインにおける行動科学の役割、高橋鷹志監訳・今井ゆりか訳、鹿島出版会、1992.8(原著1987)
Norman,D,A,:誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論、野島久雄訳、新曜社、1990.1(原著1988)
鈴木毅:「人の『居方』からみる環境」、現代思想vol22-13、pp.188-197、1994.11
大野隆造:「アフォーダンス」、建築・都市計画のための空間学辞典、pp.47、井上書院、1996.11
高橋鷹志・舟橋國男・門内輝行他:人間-環境系のデザイン、日本建築学会編、編彰国社、1997.5高橋鷹志・長澤泰・西出和彦編:環境と空間、シリーズ<人間と建築>1、朝倉書店、1997.10

3.哲学・思想とアフォーダンス
佐々木正人・村田純一:「アフォーダンスとは何か」、現代思想vol22-13、pp.262-293、1994.11
佐々木正人・松野孝一郎・三嶋博之: アフォーダンス 複雑系の科学と現代思想、青土社、1997.11
中村雄二郎:「アフォーダンス 現象学/マインドスケープ/表情」、述語集、pp.11-15、岩波新書、1997.5
吉岡洋:「環境と判断 アフォーダンスのラディカリズム」、<思想>の現在形 複雑系・電脳空間・アフォーダンス、pp.172-212、講談社選書メチエ、1997.8

4.認知科学とアフォーダンス
Neisser,U.:認知の構図 人間は現実をどのようにとらえるか、古崎敬・村瀬旻共訳、サイエンス社、1978.10(原著1976)
佐々木正人: からだ:認識の原点、認知科学選書15、東京大学出版会、1987.11
佐伯胖・佐々木正人:アクティブ・マインド、東京大学出版会、1990.5

5.論文その他
有川智他:建築学におけるアフォーダンス概念に関する覚書、東北大学建築学報、第33号、1994.3

千葉大の高橋さん作成の資料を参照しました。それぞれの本で述べられている事柄の概要は、下記を参照のこと。

Gibson,J.J.、古崎敬他訳:生態学的視覚論、サイエンス社、1985.4(原著1979)
 アフォーダンス理論の提唱者であるギブソン(James Jerome Gibson 1904-79)3部作の一つで、彼の遺作となった本である。原著のタイトルは、The Ecological Approach to Visual Perception という。アフォーダンスの理論については、特に一つの章を割いて説明されている。
 アフォーダンスという言葉でギブソンが何を言わんとしているかを知るには、この本を読めばよいのであるが、通常の本(いや文章)とは異なり、1ページ目から「何か得体の知れない違和感」を感じさせてしまうという奇妙な本である。その違和感の正体がギブソンの言わんとしていることなのかもしれないが、、、。

佐々木正人:アフォーダンス 新しい認知の理論、岩波科学ライブラリー、岩波新書、1994.5
 アフォーダンスを軸にギブソンの思想をやさしく紹介した本。人間は環境から刺激を受け、それを脳の中で処理して意味のある情報を得ているという認知理論を否定し、情報は環境そのものの中に実在している、という「生態学的認識論」をメインに展開されている。
 平易に書かれており、ページ数もそれほど多くないため(100ページ強)、ギブソンの思想に触れるには良い入門書である。ここで、ギブソンの主張のポイントをつかんでおくと、「生態学的視覚論」が、ぐんと読みやすくなるであろう。

佐々木正人:知性はどこに生まれるか ダーウィンとアフォーダンス、講談社現代新書、1996.12
 アフォーダンスについて書かれた本としては、前述の「アフォーダンス 新しい認知の理論」と同様に、入門書的な性格となっている本であり読みやすい。
 ダーウィンの進化論は有名だが、彼の「心理学」はあまり知られていない。「この世界で起こる変わりつづけているありのままのこと」にだけ興味のあったダーウィンが、ミミズの行為にも「ありのまま」を見、知性や知能と呼んでいるものの再考を試みている。ギブソンがアフォーダンス理論で何を言おうとしているかを読者に「体感」させてくれる。
 ダーウィン以外にも、ピアジェの発達理論とは異なる「リーチング」に関する実証的研究や「大道芸で行われるジャグリング」、「天井からぶら下がっている一本のひも」など身近な例を引き、楽しく読み進められるであろう。

2.デザインとアフォーダンス

Lang,J:建築理論の創造 環境デザインにおける行動科学の役割、高橋鷹志監訳・今井ゆりか訳、鹿島出版会、1992.8(原著1987)
 原著のタイトルは、CREATING ARCHITECTURAL THEORY The Role of the Behavioral Sciences in Environmental Designという。監訳者の言葉によれば、「建築・都市デザインの専門家であるJ. ラングが、膨大な環境行動研究の文献を渉猟し、その知識体系をインテリア、建築、都市の研究者やデザイナーに理解しやすいかたちで提供」し、「デザイナーがこれまで無意識に進めてきたデザイン行為、そしてその結果つくられた成果品としての物理的環境が人間生活に与える影響に関する理論に注目し、それらを紹介した」本である。
 アフォーダンスについても言及されている。「もののアフォーダンスというのは、対象が物質であろうと非物質であろうと、特定の方法で特定の種またはその種の個人メンバーが使用できるためにその対象が持つ資質である。(pp.106-107)」、「ある物理的セッティングのいろいろなアフォーダンスとは、その形態の特徴と構成している物質の特徴の結果として、良いものであれ悪いものであれそれが提供するものであるということである。(p.107)」など。

Norman,D,A,:誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論、野島久雄訳、新曜社、1990.1(原著1988)
 原著のタイトルは、THE PSYCHOLOGY OF EVERYDAY THINGS という。タイトルの通り、認知科学者ノーマンが、ドアのノブから自動車、ファミコン、コンピュータにいたるまで、私達が毎日当たり前に使用している道具をとりあげ、その問題点を認知心理学の近年の成果である記憶のモデル、エラーの分析、メンタルモデル、行為の理論などから、一般向けに平易に解説している。
 アフォーダンスについては、「材料の心理学・道具の心理学の出発点となる研究は、もうすでにある。事物のアフォーダンスに関する研究である。ここで、アフォーダンスという言葉は、事物の知覚された特徴あるいは現実の特徴、とりわけ、そのものをどのように使うことができるかを決定する最も基礎的な特徴の意味で使われている。」と述べている。
 おそらく、広くデザインに関係している者にとっては、「アフォーダンス」という言葉を知るきっかけとなり、もっとも影響を受けた本であろう。

鈴木毅:「人の『居方』からみる環境」、現代思想vol22-13、pp.188-197、1994.11
 現代思想の「特集:アフォーダンス」に収められている。「居方」とは、ある場所に人が居る時の状態、その時に周囲の環境とどのような関係をとっているか、またそれが他者にどのように認識されるかなどを総称する概念として用いられている。この「居方」をキーワードに人間が環境の中のある場所に居ることの価値を考察している。「居方」とアフォーダンスの関係であるが、アフォーダンスのエッセンスを感じ取りながらも、現在のところそれとは少し距離を置いているように見受けられる。
 その他に以下の文献がある。
大野隆造:「アフォーダンス」、建築・都市計画のための空間学辞典、pp.47、井上書院、1996.11
高橋鷹志・舟橋國男・門内輝行他:人間-環境系のデザイン、日本建築学会編、編彰国社、1997.5高橋鷹志・長澤泰・西出和彦編:環境と空間、シリーズ<人間と建築>1、朝倉書店、1997.10

3.哲学・思想とアフォーダンス
佐々木正人・村田純一:「アフォーダンスとは何か」、現代思想vol22-13、pp.262-293、1994.11
 佐々木正人氏と現象学者村田純一氏との対談である。ギブソンのアフォーダンス理論をフッサール、ハイデッガー、メルロ・ポンティといった現象学による知見と照らし合わせ、哲学的な位置付けを試みている。
 対談形式なので、アフォーダンス理論を聞いたことのある人が通常抱く疑問に対し、その解説がなされている。理解を深めるにはよいが難解な文章も多く、解説を理解することがまず大変である。現象学について、少しでもその考え方に慣れておくと、読みやすいのかもしれない。

佐々木正人・松野孝一郎・三嶋博之: アフォーダンス 複雑系の科学と現代思想、青土社、1997.11
 現代思想1997年2月に収められていた三者の対談をハードカバーとして出したもの。対談の他に三嶋氏(生態心理学)による「アフォーダンスとは何か」、佐々木氏による「運動はどのようにアフォーダンスにふれているか」が収蔵されている。
 生物物理学者の松野氏との対談のタイトルは、「複雑系・アフォーダンス、内部観測」である。上記の対談と同様難解である。しかしながら、現在直面しているさまざまな問題に対し、その根底にあるものは共通しており、それらはデカルトやニュートンまで遡って考える必要がある、というニュアンスだけは、かろうじて感じとれた。その他に以下の文献がある。
中村雄二郎:「アフォーダンス 現象学/マインドスケープ/表情」、述語集、pp.11-15、岩波新書、1997.5
吉岡洋:「環境と判断 アフォーダンスのラディカリズム」、<思想>の現在形 複雑系・電脳空間・アフォーダンス、pp.172-212、講談社選書メチエ、1997.8

4.認知科学とアフォーダンス
Neisser,U.:認知の構図 人間は現実をどのようにとらえるか、古崎敬・村瀬旻共訳、サイエンス社、1978.10(原著1976)
 原著タイトルをCognition and Realityという。それまでの「直列型」といわれる情報処理モデルを批判して、環境が提供する情報を抽出する働きをするものとして循環モデルによる「図式(schemata)」という概念を提案した。冒頭に「J.J.ギブソンとE.J.ギブソンに捧ぐ」とあるように、ギブソンとは研究者仲間であったようだ。しかし、ギブソンのアフォーダンス理論については、「私は本書を献呈しているジェームス・ギブソンおよびエレノア・ギブソンに十分負うてはいるものの、私自身の考えはギブソン派の基本的立場と必ずしも完全に一致しているわけではない。」としているところが、興味深い。
その他に以下の文献がある。
佐々木正人: からだ:認識の原点、認知科学選書15、東京大学出版会、1987.11
佐伯胖・佐々木正人:アクティブ・マインド、東京大学出版会、1990.5

5.論文その他
有川智他:建築学におけるアフォーダンス概念に関する覚書、東北大学建築学報、第33号、1994.3
 その他建築分野においてアフォーダンスについて言及した論文等は、上記の有川論文のレファランスが大変参考になる。

■方法

■方法

岩下豊彦:SD法によるイメージの測定、川島書店、1983
日本建築学会編:建築・都市計画のための調査・分析方法、井上書院、1987

追加:
朝野煕彦:入門 多変量解析の実際、講談社、1996
日科技連官能検査委員会編:官能検査ハンドブック、日科技連、1973
市川伸一編著:心理測定法への招待 測定からみた心理学入門、サイエンス社、1991
鷲尾泰俊:実験計画法入門(改訂版)、日本規格協会、1997
鷲尾泰俊:実験の計画と解析−シリーズ・入門統計的方法4−、岩波書店、1988
中里博明、川崎浩二郎、平栗昇、大崎厚:品質管理のための実験計画法テキスト(改訂新版)、日科技連出版社、1993
大村平:実験計画と分散分析のはなし、日科技連、
辻新六・有馬昌宏著:アンケート調査の方法−実践ノウハウとパソコン支援、朝倉書店、
佐藤信:推計学のすすめ 決定と計画の科学、ブルーバックスB116、講談社、1968
日本建築学会編:建築・都市計画のための 空間学、井上書院、1990
日本建築学会編:建築・都市計画のための モデル分析の手法、井上書院、1992

解説:
 環境心理の研究を行うには、観察・調査・実験などを行うわけであるが、ここで大事なことは、目的にあった方法を用いるということである。それぞれの方法についての特長・欠点といったものに関するくわしい文献は社会調査や心理学などの分野に多いが、さまざまな方法を1冊にまとめてあり、また対象が建築・空間であるため環境心理研究入門に使いやすいものとして、日本建築学会編の「建築・都市計画のための調査・分析方法」があげられる。また本書は、環境心理関係の本や論文を読む際に、そこで用いられている方法について理解を深めるために参照するのもよいであろう。
 調査・実験ともに多用されているSD法に関しては、岩下豊彦の「SD法によるイメージの測定」が実用面に配慮されており、また因子分析についてもくわしく、手引書としてすぐれている。

■事典・その他

■事典・その他

新版心理学事典、平凡社、1981
和田陽平他編:感覚・知覚心理学ハンドブック、誠信書房、1969
心理学研究法、東京大学出版会、1973-5
講座心理学、東京大学出版会、1969-71
認知心理学講座、東京大学出版会、1987-88
認知科学選書、東京大学出版会、1985-88
人間工学事典、日刊工業新聞社、1983

追加:
日本建築学会編:建築・都市計画のための 空間学事典、井上書院、1996

解説:
 環境心理はその基礎を心理学におき,従来の心理学を基礎として理解している必要があるが,「講座心理学」は従来の心理学を体系的に理解する際に非常に参考になる。一方心理的なものを扱う学問は最近新たな展開をし,認知科学や認知心理学として進歩しつつあるが,これらに興味をもっているならば「認知科学選書」や「認知心理学講座」が参考になる。また実験や調査を行う際の参考資料としては,方法論を体系的にまとめたものに「心理学研究法」があり,手軽に調べやすいものとしては「心理学事典」や「感覚・知覚ハンドブック」がある。

■定期刊行物

■定期刊行物

Environment and Behavior. Sage Publications,Inc., Beverly Hills, California.
Journal of Environmental Psychology. Academic Press: London

解説:
 Environment and Behaviorは、環境心理学を扱う隔月刊誌。論文中心で、内容的には実際への応用を射程に入れた、心理学サイドからのアプローチのものが主である。米国を中心とした環境心理学分野の学会EDRA(Environment Design Research Association) のメンバーを中心とした研究者が投稿しているため、主に米国での研究の動向が伺われる
 Journal of Environmental Psychology も同様に、環境心理学の分野を扱っている論文中心の雑誌。季刊。研究色が濃いが、建築関係を扱ったものも見られる。International Association for the Study of People and Their Physical Surroundings ( IAPS:国際環境心理学会)を背景としており、主にヨーロッパの研究の動向が伺われる。





以上 98.10.24