生活環境を知るための文献
私が薦める一冊の本
池谷昭三
天然染料と出会いましょう —自然の美しい色彩とそのお話—
文芸社、2007
1.はじめに
ヒトの最も身近な環境を形成する被服は、かつては、績み（うみ）、紡ぎ（つむぎ）、染め（そめ）、織り（おり）、裁ち（たち）、縫い（ぬい）と、被服材料の生産（麻、木綿の栽培、養蚕）から、被服材料の製作（糸績み、手紡ぎ、染もの、機織り）、被服の製作（裁ち、縫い）まで、すべて家庭で行われていました。そのころ使われていた色素は植物や動物から抽出されていた天然染料です。
2.合成染料の発見
有史以来19世紀中頃まで、染色にはすべて天然染料が用いられました。1856年、イギリスのパーキンがマラリアの特効薬キニーネを合成しようとして偶然に発見された合成染料第１号の赤紫色のモーブ（またはモーベイン）が端緒となって、時を同じくして開発されていった化学繊維とあいまって、合成染料の時代を迎えるようになったわけです。
3.天然染料への回帰
しかし近年、実用染色は大きな転換期を迎えています。環境保全と省エネルギーを考慮しなければならない時代に、染色加工の準備工程、染色工程、仕上げ工程で、大量の水と合成染料、染色助剤をはじめとする多種多様の薬品を用い、かつ、これらを含む廃棄物および排水処理が必要となる染色は工夫を余儀なくされています。そのような状況の中で、合成染料の毒性などが指摘され、天然染料の見直しも活発になっています。
4.著者の思い
この本の著者は染色会社の専務取締役まで務めた人で、晩年に天然染料の研究を始め、活躍しました。日本のみならず、世界各地に残る伝統的な草木染め文化、天然染料染色の文化を大切に残していきたいとの思いがあるようです。
5.自然の美しい色彩とそのお話
この本は基礎編、染材各論、応用編の三部構成でできていて、化学的な解説もありますが、大部分を染材各論に割り当てています。たくさんの天然染料とその染色方法、そして、その色相がカラーで掲載されていて見ているだけで楽しくなります。また、天然染料にかかわる歴史上の話題をところどころに配置し、末尾には万葉集に詠まれている染め織りの歌が掲載されています。見るだけでもよし、染めてみるのもよしという本です。 （H.G.）
- 槙究教授のお薦め「D.A.ノーマン／誰のためのデザイン？」
- 塚原肇教授のお薦め「水戸岡鋭治／ぼくは「つばめ」のデザイナー」
- 橘弘志准教授のお薦め「赤瀬川原平／我輩は施主である」
- 鎌田佳伸教授のお薦め「平井東幸編／図解 繊維がわかる本」
- 佐藤健准教授のお薦め「飯倉晴武／日本人のしきたり」
- 高部啓子教授のお薦め「森南海子／手縫いのこころ」
- 城島栄一郎教授のお薦め「日本化学会化学教育協議会／「化学」入門編」
- 山崎和彦教授のお薦め「S.J.グールド／フラミンゴの微笑」
- 高田典夫教授のお薦め「松山巌／建築はほほえむ」
- 牛腸ヒロミ教授のお薦め「池谷昭三／天然染料と出会いましょう」
- 槙究教授のお薦め「安野光雅／空想工房」
- 塚原肇教授のお薦め「村上龍／13歳のハローワーク」
- 橘弘志准教授のお薦め「中村好文／住宅巡礼」
- 鎌田佳伸教授のお薦め「佐伯平二＋長崎訓子／環境が分かる絵本」
- 佐藤健准教授のお薦め「市川宏雄／文化としての都市空間」
- 城島栄一郎教授のお薦め「齋藤勝裕／マンガでわかる有機化学」
- 山崎和彦教授のお薦め「E.ケストナー／飛ぶ教室」
- 高田典夫教授のお薦め「富田玲子／小さな建築」
- 牛腸ヒロミ教授のお薦め「徳井淑子／図説ヨーロッパ服飾史」
- 槙究教授のお薦め「芦原義信／街並みの美学、続・街並みの美学」
- 塚原肇教授のお薦め「JIDA編／プロダクトデザイン」
- 橘弘志准教授のお薦め「日本建築学会編／まちの居場所」
- 川上梅教授のお薦め「A.C.サムリ／国際的消費者行動論」
- 佐藤健准教授のお薦め「鈴木孝幸／ecoテクノロジーへの挑戦」
- 城島栄一郎教授のお薦め「松本卓／格好よかった昭和」
- 山崎和彦教授のお薦め「国立天文台編／理科年表」
- 高田典夫教授のお薦め「山崎亮／コミュニティデザイン」
- 牛腸ヒロミ教授のお薦め「大矢勝／石けん・洗剤ものしり事典」
- 槙究教授のお薦め「吉祥寺スタイル、タウンウォッチング」
- 塚原肇教授のお薦め「柏木博ほか／ロングセラー・デザイン」
- 橘弘志教授のお薦め「坂本光司／日本でいちばん大切にしたい会社」
- 川上梅教授のお薦め「電通総研ほか編／世界主要国価値観データブック」
- 佐藤健准教授のお薦め「清家剛ほか／サスティナブルハウジング」
- 塚原肇教授のお薦め「川口マーン惠美／住んでみたドイツ」
- 牛腸ヒロミ教授のお薦め「丸山伸彦監修／すぐわかる染め・織りの見わけ方」
- 槙究教授のお薦め「ジュリア・カセムほか編／インクルーシブデザイン」
- 城島栄一郎教授のお薦め「志村幸雄／笑う科学 イグ・ノーベル賞」
- 大川知子准教授のお薦め「カラーでよみがえる東京〜不死鳥都市の100年〜」
- 川上梅教授のお薦め「思春期・青年期のこころ〜かかわりの中での発達〜」
- 橘弘志教授のお薦め「糸井重里／インターネット的」