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生活環境を知るための文献

私が薦める一冊の本

糸井重里
インターネット的
PHP文庫、2014

 この本は「ほぼ日刊イトイ新聞」というサイトを運営する糸井重里氏が、このサイト運営を通して気付いたり感じたりしたことを書いたものです。

 初版は2001年ということで、もう15年も前の内容になります。インターネットに関わる技術の進化は日進月歩なので、そんな古い情報は役に立たないのではないか、と思われるかもしれません。でもこの本に書かれていることは、技術的な内容ではなく、インターネットが普及するにつれて社会がこのように変わっていくのではないか、という価値観の変化を示したものです。その内容は古くなるというよりもむしろ、現在私たちの周りで起きているさまざまな変化を見通しているようにも思えます。

 ここで提示されている価値観とは、「リンク、フラット、シェア」の3つです。いろんな思いをもった人がリンク(繋がる)ことで、さまざまな新しいモノや考え方が生まれてくる。それぞれが自分のもっている技術や知識を独り占めするのではなく、シェア(おすそ分け)することで、みんなが楽しさや利益を共有することができる。そして、既存の地位や組織や権威などにとらわれず、フラット(平ら)な関係が築かれ、フラットな考え方が生まれていく。ひたすら利益至上主義で邁進するわけでもなく、また自分を犠牲にして他者のために尽くすわけでもなく、一人ひとりが主体的に、自由に、軽やかに参加することで、いい関係やいい世界が築かれていく、そんな考え方や生き方のことを示しています。

 こうした価値観は必ずしも、インターネットによって生まれた新しい概念というわけではありません。しかしインターネットの発達とともに、こうした価値観がクローズアップされていくのではないか、という指摘は、現在の状況を予言したかのようです。たとえば、現代注目されているさまざまな社会の動き、シェアハウスという住まい方、いえ開きという住宅の使い方、コワーキングという働き方、コミュニティカフェなどの集いの場、いずれも「リンク、フラット、シェア」という価値観が反映されているとも言えます。

 文庫本で気軽に手に取りやすく、文章も平易で、きわめて読みやすい本です。それでいて、自分のライフスタイルに対するメッセージとして、これからの社会のあり方のガイドとして、新しいサービスの仕組みのヒントとして、あるいはものづくり・まちづくりのデザインの足がかりとして、さまざまな読み方のできる本だと思います。  (H. T.)