生活環境講座

第2回 地球温暖化 城島栄一郎

 今年7月に開かれた洞爺湖サミットの主要議題が地球温暖化防止のためのCO2削減問題でした。今回のテーマに地球温暖化を取り上げてみます。
 地球規模の話ですから個人の生活とかけ離れたことと思えそうですが、個々の生活様式と行動の集積として起こっている問題です。そして最終的には私たち人間の生活に大きな影響を及ぼす問題であることを認識する必要があります。
 以下は、月刊「化学」,化学同人,Vol.63.7(2008)の特集記事『あらためて「地球温暖化」とCO2を考える』を抜粋してまとめたものです。

気温ー海水面ー二酸化炭素(CO2)濃度の変動

 35万年前から現在までの大気中の二酸化炭素(CO2)濃度、南極大陸“ドームふじ”の気温(現在との差)と海水面の変化を調べたグラフ(東北大学大気海洋変動観測センター)です。CO2濃度、気温、海水面は大きな周期で変動していて、それらの変化が連動していることがわかります。気温が低い長い氷河期の間に10万年周期で間氷期(ピンクの部分)が訪れています。間氷期は気温が上がり海水面が上昇し、また、CO2濃度が高くなっています。このような周期的変動は地球が太陽を回る軌道の変化によって起こる(自然起源)と考えられています。
 現在は図の右端の温暖な間氷期にありますから、気温が上がりCO2濃度が高くなることもその一環であれば人間の活動のせいではないように思えますが、次に述べるように20世紀後半からの急激な気温上昇は、人間の活動に伴って排出されるCO2を中心とする温室効果ガスの増加が原因(人為起源)であることがわかってきました。

平均地表気温変化

 前の図でいうと右端の数ミリの部分の相当するごく最近(過去100年間)の地表の実際の平均気温(実線)と、地球の気候をコンピュータでシミュレーションする「気象モデル」を使った計算値を比較したものです。人間の活動がないと想定した自然の気候変動要因のみからの計算値(灰色部分-自然起源)と、これに温暖化ガスの排出など人間の活動による要因を加えて計算した値(赤色部分-自然起源+人為起源)とを較べてみると、過去50年間の気温の急激な上昇(約0.5℃)は人間の活動が原因であるといえるようです。
 このまま何もしないでいくと今世紀末には平均地表気温が1〜6℃上昇することが予測されています(ずいぶん幅がありますが対策のとり方で変わるということです)。そうすると、ただ単に暖かくなるだけではなく海水面の上昇、干ばつ、砂漠化、水不足、局地的な豪雨など人間社会は大きな影響を受けることになります。
 確かにこの50年間で私たちはエネルギーや資源を大量に消費するような“豊かで便利な”生活スタイルへと変化してきました。自動車、飛行機、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビ、パソコン、合成繊維、プラスチック・・・ いずれも普及し始めたのは50年程前からです。これらは製造過程でも使用過程でも廃棄過程でも、石油を中心とした多くの資源とエネルギーを使い大量のCO2を発生します。CO2が温暖化の主な原因と考えられていますから、最初に述べたようにCO2削減が世界の最重要課題となるわけです。
 次に、なぜCO2の増加が地球を温暖化するのかを考えてみましょう。

温室効果とは

 地球の平均気温は太陽から受ける熱放射エネルギー(赤外線)と地球から放出される赤外線放射エネルギーのバランスで決まります。地球に大気がなければ約-15℃になると計算されていますが、実際は+15℃程度になっています。これは大気中に赤外線を吸収する物質があり、これが地表からの放射赤外線を吸収して、半分は宇宙へ半分は地表へ再度放射することによって、結果として地球から宇宙への熱の放射を減らし気温を上昇させるからです。
 大気中の赤外線を吸収する物質として二酸化炭素(CO2)、水蒸気(H2O)、メタン(CH4)などがあり温室効果ガスとよばれています。これらのガスによって地表面が温められることを温室効果といいます。冬期の青天(水蒸気の集まりである雲がない)の翌朝は冷え込みが厳しくなり(放射冷却といっています)、曇天の翌朝はあまり冷え込まないのも同じ原理です。
 温暖化効果がなければ地表面は極寒の世界になって困るわけですが、大きすぎると前述のような地球温暖化の問題となるのです。

地球温暖化に係る要因

 地球温暖化には様々な要因が関係してきますが、1750-2005年までの考えられる要因について寄与量の合計をまとめたグラフです。右へ出る赤い棒が温室効果に寄与する要因で、左への灰色の棒は冷却効果をもたらす要因です。CO2は濃度も高く温室効果の約60%を占めますが、それよりずーっと濃度の低いメタンやフロン類(ハロカーボン)もかなりの温室効果をもたらすことがわかります。エアロゾルは火山ガスや煙突の煙などの大気中の微粒子で、太陽光線を反射して地表面へ届かないようにするのでマイナスの効果となっています。これらの人間活動によって排出されるものが人為起源の要因でありプラスマイナスした合計の温暖化効果は」、太陽の放射変化による自然起源による効果と比べると10倍以上大きいことがわかります。
 したがって、人間がCO2を中心とする温室効果ガスを排出し続けると、地球の温暖化のスピードも加速し、取り返しのつかない事態になる可能性が高いのです。そのようになる前に私たち一人一人が温室効果ガスの排出削減に努めることが必要となります。

 最後に、現時点で最新の地球温暖化評価報告であるIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の第四次評価報告書(2007年)の要約を引用します。内容は下記のような科学的知見の集約結果が記述されており、地球温暖化の早急かつ大規模な緩和策の必要性を強く訴える内容となっています。

「我々を取り巻く気候システムの温暖化は決定的に明確であり、人類の活動が直接的に関与している。」
…人間による化石燃料の使用が地球温暖化の主因と考えられ、自然要因だけでは説明がつかないことの指摘

「気候変化はあらゆる場所において、発展に対する深刻な脅威である。」
…気温や水温の変化や水資源、生態系などへの影響のほか、人間の社会に及ぼす被害の予測結果についての評価

「地球温暖化の動きを遅らせ、さらには逆転させることは、我々の世代のみが可能な(defining)挑戦である。」
…気候変動の緩和策の効果、経済的実現性と、温室効果ガスの濃度別に必要な緩和策の規模や被害等の分類などの評価

興味がある人は“IPCC”のキーワードでWeb検索すると多くの詳しい記事を見ることができます。(E. J.)