生活環境講座

第12回 反応時間を計る 山崎和彦
反応時間とは

 反応時間 reaction time とは、例えば陸上競技の場合、号砲からスタートするまで、つまり合図の提示から、感覚の発生、脳における情報処理を経て、筋収縮に至るまでの時間をいう。人類は100msec(=0.1秒)を切ることは不可能とされ、これがフライングの判定基準となっている。実験では、合図に対しできる限り早く指でボタンを押したり、両足でジャンプしたりするよう指示する。ひとつの刺激に対し単純に反応するものを「単純反応時間」、複数の刺激を設け各々に対応した反応を要求するものを「選択反応時間」という。

目的や方法は様々

 研究目的は多様であり、個人差(性差、年齢差、性格の違い、選手と一般人の違いなど)や個人内変動(日内リズム、覚醒水準、疲労、訓練効果など)、合図の種類(聴覚、視覚)、合図と反応の組み合わせ(右耳に音を与え、左または右の指でボタンを押すなど)について検討されている。

 測定装置も多様である。ユニバーサルカウンタ、パソコン、落下棒を主体とし、合図の提示、時間測定、データ処理など各種の方法が派生する。ユニバーサルカウンタを使用すると測定精度の高さが実感できる。単純反応時間が150msecをコンスタントに切る学生は優秀というのが筆者の個人的評価基準である。パソコンによるものは百花繚乱であり、往々にして開発者の自己満足に終わる。

落下棒の原理

 落下棒は精度は悪いが電源が不要である。そこで「体育の日」の行事のひとつとして用いられることがある。以下これについて説明する。重力加速度を9.8m/秒²とし、空気抵抗を無視すると次式が成り立つ。

  •   落下開始後t秒が経過した時点での落下速度=加速度×t=9.8t(m/秒)
  •   t秒間における平均の速度=9.8t÷2=4.9t(m/秒)
  •   t秒間に落下する距離=4.9t×t=4.9t²(m)

 表1に落下時間と落下距離の関係について示す。0.3秒で44.1cm落下する。つまり45cmほどの棒や定規があれば、反応時間は最大0.3秒(300msec)まで測定可能ということになる。あらかじめ棒には反応時間を示す目盛りを刻んでおく。測定の際、被験者は棒の下端で指を開いて待機し、実験者が落下させる棒をキャッチし、その目盛りを読む。

表1 落下時間と落下距離の関係(抜粋)
落下時間(秒)0.100.110.120.130.150.20 0.250.30
落下距離(cm)4.90 5.937.068.2811.0319.6030.6344.10
新たな工夫

 棒を落下させるとき、実験者はつまんでいた指を離す。よって実験者の技量が結果を左右する。測定精度を高めるには落下開始方法について工夫が要る。筆者はいろいろ試したが、垂直な板に小穴をあけ爪楊枝を引き抜く方式が簡潔であった(図1)。なお、キャッチにも工夫を施し、輪ゴムを離す方式とした。

 図1 落下棒方式を工夫する

 落下棒方式では被験者と実験者がペアになる。そこで単独で実施可能なものを考案した(図2)。シンバルは大学構内のゴミ捨場で拾った。これを園芸用の金属枠に乗せ、周囲をビニルで覆った。周回するボールはやがて中央の穴から落下するので、これを両手で拍手するようにキャッチする。高さを区切りランク分けをしている。

 図2 単独でも測定可能

最後に

 学園祭にやってきた幼児について測定すると、反応時間はやたらと長い。しかし測定を続けるうちに並外れて優れる者が見つかるだろう。反応時間の天才である。学芸における天才は長ずるに及び凡人になり易いと聞くが、運動となると別かも知れない。剣道、フェンシング、卓球など敏捷性を要する競技は多い。反応時間による選別は、選手育成のための国家的戦略となり得るのではないか。(K. Y.)