生活環境講座

第9回 鍛えてますか? 佐藤健
身体活動の勧め

過酷な訓練に耐えた宇宙飛行士が無重力状態の宇宙から戻ってくると、その人体は老化現象と同じような兆候が見られます。立っていても、座っていても、ボーっとしていても、歩いたり走ったりしていても私たちを地面に引き付けている重力(G)は、骨や筋肉だけでなく感覚も常に刺激してよい状態に保つ働きをしています。逆を言えば、家に閉じ篭ってごろごろしたり、ちょっとした移動も歩かずに車を使うと、重力の刺激を避けるような生活は歳を取って辛い症状に悩まされる原因の一つと言えるでしょう。

宇宙医学を地上で活用しましょう

左のとても懐かしい写真は、1996年のケネディ宇宙センターでSTS-72ミッションに備えて、スーツの試着をする若田さんです。後ろには、宇宙医学のパイオニア、スペースドクター関口先生(旧NASDA)です。2009年には、宇宙ステーションに長期滞在をするなどミッションスペシャリストとして活躍しているのをご存知の皆さんも多いでしょう。今回、上空400キロメートル上の無重力環境で生活をしている若田さんの心電図(Electrocardiogram, ECG)データを地球へ伝える実験に成功しています。将来、遠隔地からの健康管理を指南するサービスや周産期医療などの遠隔診断・医療分野での応用が期待されます。

宇宙医学

宇宙飛行士を対象とした医学研究を主に扱います。重量が小さく生活環境の異なる宇宙空間での人体の変化や健康の影響を解明します。長期滞在で骨・骨格筋が減少する症状は有名です。近年は、長期滞在での心的ストレスの研究も含めて人間工学もお手伝いをしています。

筋力を高めて骨を強くするには?

エクササイズに最も必要なのは、重力です。左の写真は1996年6月のRichard Linnehan宇宙飛行士の脚トルク(膝の曲げ伸ばし時の力)測定の様子です。このころのスペースシャトルでのミッションは、宇宙実験が主流で様々な人体・生物への宇宙環境の影響を検討された時期でした。現在でも、骨量の減少、筋肉の萎縮などを宇宙環境で防止することはできません。しかし、宇宙飛行士の研究から、骨粗しょう症などの研究が盛んに行われるようになりました。重力こそが、私たちの日常生活を生き生きとさせている一因となります。鍛えている意識は無くても、歩いていればエクササイズとなっているでしょう。(T. S.)