生活環境講座

第19回 逆転の発想 2題 槙究
[1]逆転の発想 その1

ハンス・モンダーマンはオランダの交通技術者。Monderman Modelと呼ばれる交通処理モデルを提唱・実践している人物だ。

「歩道と車道を分離する縁石やガードレールは設置しない」
「指示・規制を示す道路標識はほとんど設置しない」
「信号機は撤去」

ネット検索したら、下記のページに行き当たったので、交差点のBefore - Afterの映像をご覧いただきたい。
http://dc.streetsblog.org/2008/01/08/hans-monderman-livable-streets-traffic-engineer-1947-2008/

この手法、ずいぶん大胆な発想だと思われるかもしれないが、交通事故が減少するなどの成果が見られているらしい。
どうも、こういうことのようだ。信号機をなくし、しかし通過交通のスピードを30km以下に抑えることで、運転者と歩行者の双方が互いにアイコンタクトを取りながら、相手の出方を伺いつつ歩を進め、車を進める。そうすると、お互いが気をつけるから安全性が高まる。

昔、運転者が1/100、歩行者が1/100の確率でミスを犯すとしても、両者が注意をすれば1/10,000の確率でしか事故は発生しない。両者が注意をするということがいかに大事かということを自転車に乗りながら考えたことがある。1/100というミスの確率がさらに減れば、かけ算の結果は極端に小さくなっていく。それをアイコンタクトという人間的な手法で取り組むところがおもしろい。

[2]逆転の発想 その2

小林茂雄さんは、夜道を暗くして安心感、安全性を確保しようとしている。

富山県八尾町は、「おわら風の盆」などで知られる古い街並みが残る小都市だ。そのライトアップを学生と一緒にやったときに、建物を明るく照らし出すのではなく、ぼんやりと光を建物の内側からにじみ出させるような、そんな照明計画を実施した。

研究室のホームページに紹介されているので、見てもらえるといい。
http://kobayashilab.net/event/yatsuo/index.htm

ここは安心感を最優先した照明計画ではないが、安心感の原理はこういうことだ。
暗いところがあると不安を感じる、暗くても人の気配を醸し出すような明かりがあると安心感につながる。暗い街路があれば、「街灯を明るくして欲しい」という要望が出て当然であるが、その要望に応えると、街灯と街灯の間の暗がりも目立つようになってきて、その部分で不安感が増す。人間の眼は暗がりに順応するのだから、多少の暗さには目をつぶって、できるだけ暗がりをなくすことがいいだろう。

この考え方を住民にいきなり理解してもらうのは無理だと、彼は言っていた。実際にやってみたものを見て、初めてそういうことかと納得してもらえる可能性が出てくるのだと。

どちらも、住民の要望をアンケートしただけなら出てこない発想だろう。人間というものをよく観察・理解しないと出てこない発想だし、解決法だと思う。(K. M.)

※[1]については筑波大学教授 西川潔先生が執筆された記事を参考にしました