生活環境講座

第3回 衣服が雨に濡れるとはどういうことか 山崎和彦
はじめに

 夏季に激しいスポーツをやっているとき、降雨に見舞われるとしばしば爽快となる。しかし服が雨に濡れるのは大概のところ不快である。散歩を無上の喜びとする犬でも、雨天では出かけるのをためらう様に見えることがある。類人猿の中には、巨大な葉を頭上にかざして傘とするものがある。
 雨は身体や衣服を濡らす。当然ながら大雨では余計に濡れる。下着より上着の方が濡れやすい。濡れは物理的、感覚的、生理的な影響をもたらすが、これらはどのように進行し、各要素の関係はどのようであろうか。

装置の制作

 実験には降雨装置が必要である。ホースや容器の底に小さな穴をあけて試してみたが、ドッと出るか、まったく出ないかのいずれかであり、なかなか上手く行かない。カタログに園芸用の「水がにじみ出るホース」が載っていた。しかし所定の水圧になるよう制御することは困難と思われた。
 最終的に、サイフォン効果を利用することにした。内径1mm、外径2mm、長さ1mのチューブを用いて、水滴10個あたりの量、滴下時間、水柱の効果について実験し、1時間雨量と水柱との関係式を求めた。図1に装置の全容を示す。5cm間隔に設置した計336本のノズルから水滴が垂れる。

衣服はいかに濡れるか

成人女子3名が実験に参加した。降雨条件2種(Rとr:時間雨量は各々80mm、30mm)と衣服条件2種(TとS、後述)を組み合わせた4条件(RT、RS、rT、rS)において、個々の衣類に対し、濡れ感の主観申告(「濡れを感じない」を0、「極度に濡れを感じる」を5とする6段階スケールによる)を求め、さらに重量測定により湿潤率(浸水後、水分を自然落下させた重量に対する比率、%)を算出した。
 衣類条件は、様式TではTシャツ、短パン、様式Sではスウェット上下とした。なおTシャツ、レインハット、靴下、ショーツ、スポーツ用ブラジャー、サンダルは両様式に共通する。
 被験者はメトロノームに合わせ、前後方向約30cmの距離を水平に往復した(頻度:15回/分)。1〜5分の間隔で作業を中断し、個々の衣類の濡れについて評価した。

図2 Tシャツにおける濡れの進行

 図2は、Tシャツの濡れの進行について描いたものである。各被験者は、湿潤率が100%に達する以前に「極度に濡れている」と評価した。全身びしょ濡れ状態になったとき「下着までグッショリ」と感じるものだが、湿潤率にはまだ余裕のあることが多いといえる。

表1 湿潤率100%に到達するまでの時間(分)

 

 表1は、湿潤率が100%に到達するまでの時間(分)について算出したものである。靴下が早いのは、サンダルを着用したためである。スウェット下およびショーツは、身体における位置の効果により濡れの進行は遅い。様式Sでは、Tシャツとブラジャーはスウェット上により覆われるため、濡れの進行は遅くなる。

 成人女子9名に被験者をお願いし、皮膚温や温冷感についても測定したが、その報告は別途行う。(K. Y.)